もうちょっとだけ続くとかそんなわけないじゃん

期待に応えないのが私です。
っていうかさーもうさー……
まあいいです、だいたいいつも通りです。



                                                                                    • -


 ちゃーん、ちゃちゃちゃちゃーん、という誰もが知るメロディが聞こえた、ような気がした。


「先輩、あの、これは……」
「言うな。僕だって知らなかったんだよ!」


 ああそうですか、それなら……いいわけないだろ! なんだこれ!
 引きつった表情で互いを見やる僕らの前にあるのは、無駄に大きなケーキ。Happy Birthday、という文字はまあいいとしよう。うん、僕の誕生日だからね。これは問題ない。サプライズプレゼント! わあびっくり嬉しいなあ!
 ……だからその横の、Haapy Weddingってこれは何? 何なの? どこから出てきたの? 誰が? 誰の?


「もう諦めろ……」
「逃げ場、ないですもんね……」


 虚ろな目をした僕らの手には、ナイフが一本。
 そう、これは俗に言うところの。


「「初めての共同作業……」」


 そんな投げやりな呟きと共に、実にめでたくもないケーキ入刀は果たされたのでした。
 ちゃちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃちゃん——無駄に楽しそうな結婚行進曲は、絶対に幻聴だったと、そう思うことにしました。




「どうしてこうなった」
「先輩が言いますかその台詞」


 まったく意味がわからないとしか言いようのない、僕のサプライズ誕生パーティー(うぇでぃんぐってなんですか?)がはっちゃけにはっちゃけたあげくにようやく終わった帰り道。先輩と二人してとぼとぼと歩いている。


「いくらなんでもあれはない。あれは」


 誰もそんなこと頼んでないっつーの、とぼやく声。ああやっぱり元凶はそこですか、ですよね、この間ついうっかり誕生日だってしゃべっちゃいましたもんね。それがまさかこんなことになるなんて……


「そういうのは任せて、っていうから頼んだだけだったのに、そこからまた相談するとかね……」
「しかもその相手があの人だったんでしょ? そりゃわけわかんないことになりますよ」


 絶対間違いなく、一番楽しそうだったその人の顔を思い出す。まあそういう人だって知ってましたけどね、いくらなんでもがんばりすぎじゃないでしょうか。あのばかでかいケーキに、謎のボード(だからうぇでぃんぐってなんですか?)、そして揃いのストラップ。しかも先輩と僕の名前が入った、どう考えたってつけられるわけもない素敵デザインである。正気か。正気なのか。


「やるからには本気で!、とか言ってたけど」
「本気の度合いが違いすぎるんですよ」


 世の中にはきっと、僕らが知らない世界——というか、知っちゃいけない世界がまだまだたくさんあるのだ。
 それはそれとして……で片付けていいかはともかく、それはそれとして。


「でも」
「ん?」
「楽しかった、ですよ」


 なんとなく気恥ずかしくて、ちょっと明後日の方を見やりながらそう口にした僕に、ふうん、と先輩は言った。そりゃよかった、と。小さく笑った。


「あーあ、もうとんだ誕生日でした!」


 本当に、何が何だかわからなくて、もう一度やるよと言われたら全力で遠慮したくなってしまうけれど、そんなばかみたいなお祭りが僕は嫌いじゃない。


「先輩が言い出したんですよね」
「まあ、一応。ここまでしろとは言ってないけどさ」
「それはそうです。言ってたらどうかしてると思いますよ?」


 うん、だってそりゃそうでしょう、いくら先輩とはいえ、ものには限度というやつがあるのです。それでも、楽しかった、という気持ちには間違いも嘘もなくて。
 だから。


「ありがとうございます、先輩」


 普段はあまり……じゃないや、絶対言わないような一言を、あえて。


「そりゃどうも」


 ちょっぴり肩をすくめて、おどけたようにそう言った先輩は、妙に不退転な覚悟をしてしまった僕とは違って余裕しゃくしゃくな様子。これは、なんだかちょっと悔しい。むう。


「あ、そうだ。先輩の誕生日っていつでしたっけ?」
「絶対教えない。僕は今日みたいなのはちょっと……」
「そんなの一蓮托生に決まってるじゃないですか! って、あ、ちょっと待ってくださいよ! 逃げるのはずるいです!」
「生贄は一人で十分!」
「生贄って言うな!」


 ……なんて、結局やっぱりだいたいいつも通り、なのだけれど。
 この先もう二度とないくらい、記憶に残る誕生日だったのは間違いのない話。場を設けてくれた先輩も、無駄に盛り上げてくれた参加者一同にも、感謝してます。
 でも出来れば、次に何かあるときはもう少し手加減してくれると嬉しいかなあ。言うだけ無駄な気もするんだけど、一応そうお願いしておきます。いや本当に、ね?



                                                                                    • -


終わりが見えない。