内田彩 a piece of colors 仙台

『Baby, Are You ready to go?』———「アップルミント」


その歌い出しと共に、Zepp DiverCityがミントグリーンに染まったのはいつだったか、を思い出すには、1枚のTシャツを取り出せばいい。
@Jam 2014という文字が記されたそれは、以降の彼女のオフィシャルグッズが「女の子が着ることしか考えていません!」な代物(当然褒め言葉)であることを思うと、いささかシンプル。
それでも、ありがちな黒の他にもう一色、ピンクというカラーリングが用意されているのは、らしい、といったところか。
ともあれ、2014年の6月1日、@Jamのステージでいきなり新曲2曲をひっさげ、ソロアルバムでデビューすることが告知されたのだった。
「アップルミント」「Breezin’」、どちらもキラーチューンと呼んでいい2曲で、終演直後の自身のツイートを検索してみても、1発で惚れ込んでいるのが見える。
特段、誰を観に行ったというわけでもないはずだったのに、印象に残っているのはやはり彼女である。


そしてそこから始まった、彼女のソロ活動。
シングルカットなし、タイアップなし、のスタンスでアルバムを4枚、ライブとしてはアップルナイトのようなイベントを除けば、1st、2nd追加公演の通称1.5ライブ、2nd、昼夜2回のコンセプトアルバムをフィーチャーしたコンセプトライブ、そして今まさに始まった、初のツアーである3rd、と回を重ね、先日はサプライズと言ってもいい武道館単独も告知された。
いささか駆け足感はあるものの、それなりに順調、と言ってしまってもいいのかもしれない。
一方で、この「ソロ活動」というものそのものに、彼女自身が迷いに似たものを抱えていた——それも、受け手としてこれまで感じてきた事実だ。
曰く、内田彩は「役者」である。
言葉にすればどうということもない、むしろ当たり前のことでしかないのであるが、諸々のイベントでの彼女の言動や立ち居振る舞いを観たことがある方からすれば、さもありなん、ではないだろうか。
演じる対象がまずあって、それを最大限魅力的に見せる、表現する、そのために自分がいる。
だからいつでも「〜役の内田彩です」と彼女は語り、またソロライブのステージ上でも、自分自身が表に出ること、についての不安や迷いを何度か口にしてきている。
内田彩役の内田彩さんを信じろ』とは、自分の周りで冗談めいて使われるフレーズではあるが、「ソロ・内田彩」を表現するのに大きく外れた表現ではないはずだ。


『後悔するなら 全力 その後でいいはずよ
 そうなんだ!』———「Growing Going」


——と、そう思っていたのだが。
先日行われた、3rdライブ仙台公演。
初のライブハウス(厳密にいえば、アップルナイト然り、フルライブ以外の構成ではこれまでもライブハウスを使用したことがあったのだが、彼女自身も「初」と表現していたこともあり、ここではそうしておく)、これまで以上に近い距離とあの空間が作り出す熱気。
セットリストもそれを踏まえて攻める構成となっており、序盤からアップテンポなナンバーで盛り上げ、中盤には新たに手に入れた武器と言っていい、コンセプトアルバム『Sweet Tears』の楽曲を据えたキラキラした時間帯も織り込んで、これまでの以上の「楽しさ」が、オーディエンス側にも、そしてステージの上にも確かにあったのでは、そう感じられる時間だった。
「楽しい!」「またライブハウスでやりたい!」
そう笑顔で語った彼女からは、遂に『内田彩内田彩としてステージに立つこと』をよしとして、それならば何が出来るか、何がしたいかを全力で表現しきった、そんな想いが見て取れた。
このツアー、内田彩は『化ける』、そう言い切ってしまいたい、新しい彼女のステージと可能性を見せつけた一夜だったのではないだろうか。


『もう もうずっと前から始まってた』———「アップルミント」


もちろん、これがライブハウスという空間の魔法であっただとか、幸運にも最前列を引き当てて最高にノリにノった自身の錯覚であった、という可能性は0ではない。
それを確かめる機会はすぐそこ、3rdツアー大阪公演、場所はNHK大阪ホール
仙台では持ってこなかったしっとりした楽曲や、『ピンク・マゼンダ』に代表される独特の空気を持った楽曲も披露されるのではないかと予想される。
あの熱狂とはまた違った空気が作り出されるのは間違いないが、そこでも『内田彩としての内田彩』(「役」ではない)が確かに感じられたなら、このツアーはとても重要な意味を持つことになるはずだ。
そして、その最終地点に待つのは武道館。
果たしてそこに立つ彼女はどんな彩りを見せてくれるのか。
そこにはもう、期待しかない。
確かに一歩を踏み出して、芽吹いた種から花開く『内田彩』を観るなら、きっと今がその時だ。


『動きだしてる 今こそBlooming, Blooming!
 カラフルな花 いっせいに咲き誇った』———「Blooming!」