たまにはこういうのも

むしろこういうのの方が自分のメインというか……
まだだいぶんあざとーくしていますが。
さてはて。



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 発売日、というのをあまり気にしたことがない。
 なんとなれば、毎日のように書店に足を運んでいるからである……っていうのは、褒められることなのかな。たぶん違う、よね。別にいいんだけど。
 ——なんて言ってみても、やっぱり気になるお話はあるわけで、その日が近づくにつれてうずうずしてくるのも確かな話。待つことだって嫌いじゃないし、一日二日の違いで何がどうなるわけでもないんだけど、楽しみなものは楽しみ、なのだ。それに、お目当てではなかったとしても、店頭で文字通りに一目惚れしちゃったりするのも日常茶飯事、とにかくまめに出向いて損をすることなんて何もない。


「今日は出てるかな、と」


 だから、今日もそんなわくわくした気持ちを両手一杯に抱えつつ、軽く鼻歌まじりに新刊平台の方を見やると——何やら見覚えのある後ろ姿。うーん、類友というかなんというか……


「奇遇ですね先輩」
「どこが。っていうか毎日会ってない?」


 あれ? そうでしたっけ? ああ、あんまりにも普通すぎて背景か何かだと思うことにしたんでした。そうそう。


「あのさ、今なんかすごく失礼なこと考えてるよね」
「え!? 先輩エスパーですか!?」
「そういうのを、語るに落ちるって言うんだよなあ、きっと」


 残念なものを見るような視線の先輩だけど、大丈夫です、あなたもだいたい同じようなもの。同じ穴の狢とはこのことだ! ……なんて、自分で言ってて悲しくなるなあ。やめよう、うん。


「まあ、まだまだ先輩だって大丈夫ですよ」
「僕はね。君は知らない」
「ひどい……」
「ひどくありません。全然」


 ちぇ、と思いつつ、それでどうするんですか、と話を本題に戻す。


「今月はどの辺を?」
「んー、これとこれ、あとは……」


 言いながら先輩が指さしていく本は、だいたい僕が読みたいと思っていたのと同じもの。好きなものが被ってる、とは実のところあんまり思わないんだけど、守備範囲に関しては重なってるの間違いなし。


「あ、それ気になってたやつだ。やっぱりよかったです?」
「あれ、まだ読んでなかったんだ。うん、僕は好きだしそっちも気にいるんじゃない?」
「ならこれも、と。こっちはどうです?」


 それでも、もちろん全部が全部、なんてわけがあるはずもなく、こうやってお互いの手が届かない部分を埋めていくのも楽しい。どうしたって、やっぱり見えないところは出てくるわけで、そこで何かを逃してしまうのはもったいない。世界はそうやってゆっくりと広がっていく……んだけど。


「……先輩」
「なにさ。いいじゃん別に」


 何か問題でも?、という表情の先輩の手には、いわゆる、その、美少女文庫的なものが。いや、別にいいんですけどね? 何を読もうと勝手だし、好きなもの読むのは止めません。でもそれ、ひとの目の前で買わなくてもなあ。


「読みたいなら貸すけど? いろいろあるし」
「いいですよ! もう、そんなだから魔王さまとか言われるんですよ」
「誰がエロ魔王だ!」
「言ってないし!?」


 ああ、迷惑なお客さんでごめんなさい。でもこういうところまで含めて、楽しい、のです。
 あれがいいこれがいいと言い合って、あれも読みたいこれも読みたいと溜息ついて、時にはまだ出ないいやもうすぐだと呪文みたいに唱えてみたり、そんなこんなで僕らの日常は物語と一緒に回っている。
 こんな時間が続けばなあ、と。
 こんな風にそれを誰かと共有していられればなあ、と。
 そんなささやかでちいさな夢は、きっとこの現実の先に続いてる……と嬉しい、かな。


「じゃあこれだ!」
「だから美少女文庫はもういいんですってば!」


 ……うん、まあ、時にはそういうこともあるけど、ね?



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このあとは、例によってそんなシーンを目撃されて以下略。
「まあ!」じゃ済まない予感しかしない。