もう午前二時です

寝なさいよ!
主に俺が!
そしてまた眠いので話を畳むのは諦めました。落ちてない。
ぜんっぜん、落ちてない。



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 特に新刊がどうの、なんてことはなかったけれど、日課のように足を向けた書店。お目当てはなくとも偶然の出会いが楽しいんだよね、そんなことを思いながら店内をぐるっと見て回っていると、何やら難しそうな顔をして平台とにらめっこしている先輩がいた。ふむ、珍しい。


「どうしたんです? いつもなら端から端まで全部かごに突っ込む先輩なのに」
「そんな買い方したことないよ!」


 ごめんなさい嘘つきました。でもやってても全然おかしくない気はする。するよね?


「ちょっと今日は別のとこで買い過ぎちゃってね。……重いんだよ」


 ほら、と示した先には、ずっしりと重そうな紙袋。当然のように店員さんの手で袋が二重にされているあれである。
 本屋のハシゴ、というと、だいたいおかしな顔をされるけれど、いわゆる大型書店でもない限り(もっと言えば、大型書店でも、だけど)、ジャンルの得意不得意というやつは絶対にある。ここに行けばあれがある、あっちに行けばこれがある、というわけで、わりと僕なんかはやったりする。……うん、マイノリティなのは知ってる。


「それはまたがんばりましたね……あ、でもこれよかったですよ。僕は好きです」
「なら借りるのもあり、か」


 ふうん、と呟いてから、そうだ、と何か思いついたような顔をする先輩。


「あれだ、僕らってさ、だいたい読むもの被ってるよね」
「まあそうですね。元々カバーしてないジャンルでも、気になっちゃって結局読んだりしてますし」
「だからさ、部屋かなんか借りて、そこで全部管理しちゃえば安くつくんじゃない?」
「……まあ、そうかもしれない、ですね」
「いっそもう住んじゃうとかさ」
「あー……」


 何を馬鹿な、という人には、僕らの月間書籍代をお知らせしたいところ……なんだけど、本人たちの名誉のため伏せさせてください。いやホントに。
 それはそれとして。
 この話題、僕としてはどうしても歯切れが悪くならざるを得ない。実のところ、僕だって似たようなことは前に考えたことがあるのだ。どうせならそういう手もあるじゃないか、と。けれど、結局実行に移すこともなく闇に葬り去った理由がある。


「……あの、先輩」
「ん? なにさ」
「それってもしかして、その」


 ああ、この単語を果たして口に出すべきか。出したらいろんな意味で負けのような気がする。するのだけど、実際そうなのだからしょうがない。むしろ逆に考えるんだ、あとでその事実が発覚した方がダメージは大きい。絶対にだ。


「——同棲って言われますよ?」
「なん、だと……」


 愕然とした様子の先輩だけど、これを笑い飛ばせない辺り、「そういうふう」に解釈する面々がイヤというほど思い当たったに違いない。


「二人の共同生活はいつ始まるんですか、とか」
「初めての共同作業はぜひ見学させてくださいね、とか」


 何を馬鹿馬鹿しい、と思ったそこのあなた。あなたはとてもしあわせです、そのままの人生を歩んでいってください。残念ながら、世の中には飢えた猛禽のような目をした人々が存在するのです。


「……やめよう。これは無理」
「ですよね。どう考えたってネタにされるだけですよ」


 はあ、と二人そろって溜息。ままならないもんです、実際。


「しょうがない、じゃあやっぱり買うか」
「え? 貸しますけど?」
「いいの、自分で持ってたいから」


 ああ重いなあ、そうぶつくさ口にしながらも、ひょいひょいとチョイスしてかごの中に詰め込んでいく姿は、なんだかやっぱり先輩、だなあ。


「なにさ、なんかおかしい?」
「いえいえ、先輩は先輩だなあ、と」
「意味が分からないんだけど……」
「だから気にしないでくださいって。それより、これ読むんだったらあわせてこっちもどうです?」


 どれどれ、と当然のように手に取ってくれる先輩。うーん、よく出来た人だなあ。このほいほい属性も、きっといろんな人に愛されてる(いや、実際愛かどうかは知らないんだけど)理由、なのかもなあ。見習うかどうかはさておいて、僕もこういうふうに何かを好きになりたいものです。はい。


「どうも、毎度お買い上げありがとうございます」


 冗談めかしてそう言ってみると、ばーか、と頭を軽くはたかれた。端から見ると、きっとちょっと(……ちょっと。うん、ちょっと、ね?)どうかなって光景なんだろうけど、まあまあ楽しいので気にしない、気にしない。さ、折角だから僕も何か新しいのが読みたいな、と。


「で先輩、僕にオススメはないんですか?」
「え? そんなのあるに決まってるじゃん。はいこれとこれと……」


 あっという間にずんずんと積まれる本は、ちゃんと僕がまだ読んでいないものばかり。なに読んだ、とは実はあまり話をしないんだけど、よく覚えてるなあ……まあ、ともあれこれで明日からもまた、新しい物語で楽しく過ごせそうです。
 どうもありがとうございます、先輩。



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この二次元の誰かさん、もう恋する乙女過ぎてダメだ……早く何とかしないと……