眠いと話が落ちないの法則
もうホント眠い。明日も仕事だからなげっぱで。
※そして朝起きて後悔する
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『お ま え ら け っ こ ん し ろ』
昼休み、先輩に屋上へ呼び出されて突きつけられたのは、脅迫状よろしく新聞だか週刊誌だかでも切り貼りして作ったような、そんな不揃いのフォントが並ぶ紙切れで、僕は途方に暮れた。いや、だってどうしろと。するわけないでしょう、そんなこと。というかむしろ出来ない。
「今朝来たら、下駄箱に入ってた」
さすがの先輩も珍しく頭を抱えている。心なしか、その声にもいつものきちくっぷり……じゃなくて覇気がない。まあそりゃそうだろう、これでうきうきでもしていたら、ただの変態だ。変態という名の紳士だよ。
「あのさ、一応聞くんだけど……」
「いえ、いいです。どうせ心当たりがあるかってことでしょう?」
こんなくだらないことをされる心当たり。普通に考えれば、そんなものはない。むしろあってたまるかという話。……うん、そう、あくまで普通に考えれば。
だけど。
「あるよね」
「ええ、ありすぎるくらいに」
そう、誠に残念ながら、その『こんなくだらないこと』を喜々としてやりたがる人間が、僕らの周囲には盛りだくさんなのである。いや待てよ、これもしかしたらそんなレベルじゃなくて——
「先輩、今ものすごく嫌なことに気がついちゃったんですけど」
「……なにさ」
「むしろ、容疑者から外せる人間がいな」
「それ以上言うな」
頼むから、と天を仰ぐ先輩。ええ、気持ちはよく分かります。正直どうしてこうなったと言いたいくらい、身の回りにおかしな連中が集まりすぎなんです。火がないところからも煙が続々と立ち上がり焼け野原と化す現実は、絶対に何かが間違ってるとしか思えません。え? 類は友を呼ぶ? はは、まさか。
「だいたい先輩が悪いんですよ、すぐ絡んでくるじゃないですか」
「いやいや、そっちのせいでしょ? なにかっていうと僕の後ついてくるし」
「違います、先輩がキャラ被ってるんですよ。自重してください」
「お前が言うな!」
なにおう、と勢いに任せて至近距離で睨み合ったりしてから、はあ、と溜息をついてどちらからともなく座り込む。並んで見上げる空が、無駄に青い。
そう、本当のところは分かっているのだ。所詮、僕らは周りの何だかよく分からない流れに押し流されているだけなのだと。二人は等しくどこまでも被害者で、やましいところなんて、ひとっかけらも存在しない。しないったらしないんだってば。
「あーもう、こういうのは気にしたら負けなんですよ! さっさと忘れましょう」
「だよなあ……じゃ、処分しといて、それ」
「えぇ……いやですよ。先輩がもらったんでしょ? 自分でなんとかしてくださいよ」
「だから、それが嫌だって言ってんの。そこら辺に捨てたら戻ってきそうな気がするし」
それは嫌だ。むしろ怖い、怖いよそういうの! さすがにそこまで性根の曲がった相手はいない……と思いたいんだけど……
「はあ、いいです分かりました。どうせ引き受けるまでねちねち言われるんでしょ」
「分かってるじゃないか。じゃ、そういうことで!」
なんだか急に元気になって、颯爽と足取り軽く屋上から姿を消す先輩に、思わず、現金な、という呟きがもれる。そういうところがあれなんですよ、まったく。
「っとにあの人は……と、あれ?」
ばーか、と聞こえもしない憎まれ口を叩こうとして、ふと余計なことに気がついてしまった。
『お ま え ら け っ こ ん し ろ』
不格好な文字が並ぶ一枚の紙切れ、裏を返してみても、念のためすかしてみても、そこに記されているのはただそれだけ。
そう、それだけなのだ。
「おまえら、って、誰が誰とも書いてないじゃん」
にも関わらず、先輩は僕を呼び出し、これを見せられた僕も何の疑いもなくそれはそういう意味だと受け取った。
……これはまずいんじゃないだろうか。わりと。とても。ものすごく。
「外堀を埋めるってこういうことか」
ついこのあいだ、喜々としてそんな台詞を口にしていた相手がいたのを思い出す。これは思っていた以上に恐ろしい何かだ……ついでに、先輩も僕も惑わされすぎ。何かあるわけなんてどこにもないじゃないか、どう考えても。そんなきゃっきゃうふふとか——
「ないないない、絶対ない」
そんな先輩見たくない。怖いよどう考えても! ああもう、さっさと忘れようこんなこと。目につかないように出来るだけ小さく折り畳んで、と。お昼食べに行こう、お昼。
「先輩は学食、かな」
わざわざ外に食べに行くほど行動力のない人だし、きっとその辺で見つかるはず。こんなもの押しつけられたんだから、新刊の一冊でも融通してもらえるように交渉しないとね。
さ、そうと決まったら善は急げ。先輩を捜しに、いざ!