ネタにするしかないとその場で思った

悪いのは僕じゃない、僕じゃないんだ。
……最近ホント、意味分かんない人には意味分かんないのが続いててすみません。
でも僕も意味が分かってません。
どうしてこうなった!



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「なんなんですかあのメール」
「え? 何が?」
 何を言ってるのか分からない、という顔で聞き返してくる先輩に、これですよ、とその文面を突きつけてやる。


『でるたさんですよ。』


「それが?」
「それがって……」
 珍しい人からメールが来たなあ、と思って開いた途端、そんなフレーズにぶち当たった気持ちは、どうやら理解されないらしい。なんでだ。
「いきなりこんな書き出しだったら、ほら、いろいろとあれじゃないですか……」
「だから何がさ」
 そんな真顔で返さないでほしい。……本当におかしいと思ってないんだろうか、この人。
 いやでも待てよ、普段はいろいろと容赦なかったりなんだったりするけど、時々根本的なところで抜けてたりするし、ひょっとしてひょっとすると、本気でまったくなんとなく、なんだろうか。
「はあ、もういいですよ……でもなんでメールなんです? どうせこうやってすぐに会うんだから、直接言ってくれれば」
「別に。ただなんとなくそういう気分だったから」
 どういう気分なんですかそれ。まったく。
「それよりさ」
「何です?」
「どうして返信くれないわけ?」
「いやだから、どうせすぐに会うし、」
「連絡もらったらすぐに返すのが礼儀ってもんでしょ?」
 分かってないなあ、とどうもご機嫌ナナメのご様子。言ってることはまったくもって正しいのだけれど、何もそんなに怒らなくてもなあ……
「ふふ」
 さてどうやってご機嫌を取ろうか、と考えていると、横でふんふんと面白そうな顔で聞いていたコモリさんがくすりと笑って言った。
「メール一通でそこまで盛り上がれるって、ホント仲が良いよね♪」
「「なっ」」
 思わず二人して絶句。
 一拍おいてから、
「「どうしてこんなヤツと!」」
 ……無駄に息があってしまった。うわあ、やだなあ。
「だから、そういうところが、だよ。うらやましいなあ、ボクも誰かとそんなふうにキャッキャウフフしたいなあ」
「それなら僕が!」
 うるさいよ先輩。まずキャッキャウフフって表現に突っ込もうよそこは。ねえ。
「ほんっとにもう……」
「あれ? どしたの? 変な顔しちゃって」
 はあ、と思わず溜息をついたところを、ずずいっとのぞき込んでくるコモリさん。いや近い、近いから!
「ふーん、へー、そっかそっか」
 その満面の笑顔は、無駄に魅力的——だってそう、これで男子である——ではあるけれど、それ以上にどこかこう、チェシャ猫めいたというか、悪戯な雰囲気をもったそれ。
「やっぱり仲良しだよね、先輩たちって」
「「だから誰が! 誰と! どうして!」」
 ……ああもう、まったく。我ながら何やってるんだか。
「はいはい、それじゃ先輩はコモリさんとキャッキャウフフしててくださいよ」
 なんだかいろいろと面倒になってしまって、適当に言ってみたそんな台詞に返ってきたのは、望むところだ!、なんて返事。……いや、まあ、いいんですけどね?
 ごゆっくり、なんてどこか捨て台詞のようになってしまったけど、それを最後に席を立つ。そんな、別にいらいらしてるとかないですから? 全然?
「あーやれやれ」
 背後で『キャッキャウフフしてる』先輩の声がするのを意識から締め出しつつ、せめてメールくらい返しておこうか、と携帯を開く。


『こんこんさんですよ。』


 一瞬、そんな恐ろしい文面が脳裏をよぎって、ないわーそれはないわー、とすぐに忘却の彼方に葬り去る。いやいや、ホントない。それは、ない。
 代わりに。
「……っと」
 短いフレーズを打ち込んで、送信ボタンをぽちり。聞き慣れた着信メロディが響くのはもちろん耳に入っているけれど、あえて足は止めない。
 その直後。
「ちょっと待てなんだこれ!」
 がたん、と派手な音を立てて椅子から立ち上がる気配。ばれないように小さく笑いをかみ殺してから、出来るだけゆっくりと振り返ってみせる。
「別に? そのままの意味ですけど?」
 せいぜい憎らしくそう言ってやると、なんだとう!、と携帯を振りかざしながらこちらに向かってくるのは、言わずもがなの我らが先輩。その向こうには、しょうがないなあ、という顔で楽しそうに見ているコモリさんの姿がある。
 そしてぶんぶんと振り回される可哀想なディスプレイには、


『ばーか』


 という短い一文。
 うん、よく出来ました。




 ……と、そんなのがいつもの光景っていうのもどうなんだろうと思うけど、残念ながらそれが現実で、これでもきっと、おしなべて世はこともなし、ろくでもないけど僕らの日常、というやつだ。
 まあ、僕は十分楽しいんだけど。
 先輩はどう思ってます? いつか聞かせてください、お願いします、ね?



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そろそろゴールしていいよね……