これで終わりにしようって思ってた

締め切りだっていうし、朝の時点ではそれでいいと思ってたのに。
でるたばくはつしろ!



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「あーもうこれでおしまいっ!」
「はいごくろうさん」


 おつかれさまー、と口だけはそう言って、そそくさと書き上げた原稿(って呼んでいいんだろうか、これ)に目を通し始める先輩。
 これを、『ああそんなに楽しみにしてたのか』と思うのはちょっと待ってほしい。自分たちのことをネタにした話を楽しみにしてるって、それはよく考えなくてもおかしい。わりとおかしい。そもそも書いてる自分だってたいがいおかしいんだけど、目の前で書かせてる先輩の方がさらにその上をいくおかしさなのは間違いない。うん。
 ……五十歩百歩? そんな言葉知りません。ええそうですよ、知らないったら知ーりーまーせーんー!


「や、でもよく書けるよね、こういうの」
「……先輩がやれって言ったんでしょうが」


 おかげさまで僕のSAN値はもうたいへんなことに。っていうかむしろ発狂してる。自分で自分をSAN値直葬だよ!


「いやいやほんと、僕はこういうの無理だから。尊敬するなあ」
「そんなわざとらしい台詞に、騙されたりしませんよ」
「ふうん。そっか、信じてくれないんだ。へぇ……」


 いいもんねー、なんて言ってるその顔が——ああもう!


「はいはいどうもありがとうございました!」
「〜♪」


 思わず声を荒げてしまい、ぜはーぜはーと息をつく僕を見て、いつものようににやりと笑う先輩。
 むかつく! すごいむかつく!


「でも、もうすぐこれも終わっちゃうんだよなあ」
「っ……」
「他のみんなのも先に読ませてもらったけど、すごいって思うよ。面白い」


 ま、僕は原稿集めるくらいしか出来ないんですけど。
 ほんのちょっとだけ拗ねた素振りで、ぽつりとつぶやく。


「だから、書けるっていうのは尊敬するんだってば。信じてくれないかもしれないけどさ」
「先輩」


 言葉に詰まってしまった僕の目の前で、これで全部そろったし、お祭りもそろそろ終わりかな——そう言って先輩は席を立つ。


「寂しい?」


 こちらに背を向け、からかうような口調で紡がれた言葉にも、まさか、としか返せない自分がいて、なんだか情けない。うう、ここは笑い飛ばしたりしないといけないところなのに。


「——さて、そんな君に嬉しいニュース」
「はい?」
「なんともう第二弾のスケジュールが」
「第二弾も続編もあるかこのどあほーっ!」


 思わずうがーっと立ち上がった僕の手をすりぬけて、次回作にも期待してるよ!、なんてふざけた台詞だけが残される。まったくあの人は……


「……次回作、なんて」


 これだけ書いたんだから、もうそんなの思いつくわけもない。
 はずなのに。


「今度はどんなふうに書いてやろうか、あいつめ」


 気がつけば、そんなことを口に出している自分がいたりして。
 しょうがない、認めましょう。
 うん、楽しかったよ。おおまじめにみんなでバカやって、とんでもないお祭り騒ぎで。二度も三度もやるもんじゃないってのも分かってるけど、それでも次があるのなら。


「せいぜい協力してあげますよ、先輩」


 はあ……これって、やっぱり一番バカなのは自分なんだろうなあ、そんなことを思いつつ、かりかりと手にしたシャープペンシルを走らせる。
 ——まだ見ぬその物語が、どうか楽しいものでありますように。




 あ、でもやっぱり先輩はむかつくから、あいつがばくはつする話にしよう、そうしよう。今決めたもう決めた絶対決めた! 決めたもんね!



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おあとがよろしいようで……ってしたかったのに。
ぎゃふん。