やまなしおちなしやるきなし

無理に十分とかで何かをどうにかする必要はないと思うんだ。
もはややけくそであります。



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『どうせ同じもの読むんだから、シェアすればいいじゃない』


 そう言ったのは果たして誰だったか。
 ともあれ、聞いたときはなるほどと思ったのだ。お財布に優しく、スペースも削減、悪いことなんてないじゃないか、と。


「先輩、次それ読みたいんですけど」
「まだ感想書いてるからダメ。代わりにこっちでも……」
「そう言いながら、どんどん自分の分キープしないで下さいよ!」


 しかし、現実はもちろんそう甘いものではなかった。同じものを読む、ということは、つまり好みが似ているということでもあり、あとは言わずもがなのお約束。


「感想書くぶん僕の方が時間かかるんだから、選んだっていいじゃないか、『サウザンドマスター』?」
「なっ……だからって十冊も二十冊もキープするのはおかしいでしょう、『キングオブ感想』?」
「なんだとう!」
「なんだとう!」


 山と積まれた本に埋もれながら、しかし次の一冊の争奪戦を繰り広げる——救いのない僕らの明日は、どっちだ。




「じゃあいいです、もう。自分で買いますから」
「ふーん、好きにすれば?」
「ええ、そうさせてもらいます。……で」
「なにさ」
「そっちの読み終わった山、面白かったのはどれとどれです?」
「こっちの? ええっと……これとこれ、かな。ああでも、これはあんまりそっちの好みじゃないかもね」
「へえ、それじゃとりあえずその辺から」
「……あのさ、わざわざ読み終わった分まで買うことないよね」
「だって先輩、意地がわる……じゃなくて、きち……じゃない、まあ、その、アレじゃないですか」
「どれだよ……いいからほら、どうせ置いといてもすぐ埋もれるんだから、読みたいなら読めば?」
「……そですか。そんなに言うんだったら仕方ないですね、ありがたく読ませてもらいます」
「読んだら感想よろしく」
「いや、そういうのはお任せしてるんで……」



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もうなにがなんだか。