No Title

「んー……っと」
「どうしたんです? 穂乃果。難しい顔をして」
「あ、海未ちゃん」
「ノートとにらめっこなんてして、珍しい……勉強、ではないですよね」
「む、ひどいなあ。私だって勉強することもあるよ! ……たまには」


「……たまに、ですか。そんなことではまた希に」
「わしわしはもうやだよぅ!!」
「では、日々予習復習を欠かさないことです。それで、何をしていたんですか?」
「うん、ちょっと、ね。……私も」
「私も?」
「作詞、とかしてみようかな、って」
「それはいいことではないですか!」
「この間ね、私が——私がみんなに迷惑かけちゃったとき、真姫ちゃんが曲を作ってくれたんだ」
「……あの時の」
「ずっと何度も聴いてたら、なんだかそんな気分になっちゃって。えへへ、あんまり私らしくない、よね」
「そんなことはありません! 穂乃果はいつだって、なんにだって前向きではありませんか。やってみたいと思ったなら、好きなようにやってみればいいんです」
「うん。ありがとう、海未ちゃん。……それで、さ。ちょっと見てもらいたいんだけど」
「……私でよいのですか?」
「もちろん! だってμ'sの作詞っていえば海未ちゃんだもん!」
「そんな、私なんて……まあ、それは別にして。では見せていただきますね」
「うぅ、なんだか緊張するなあ……」
「私の時もことりの時も、一番に楽しそうに見ていたのは誰でしたっけ?」
「うーみーちゃーん……」
「ふふ、冗談です。それでは、と」
「……どきどき」
「……」
「……ええっと」
「……」
「あの、海未ちゃん?」
「……」
「もしもーし、園田さーん! 園田海未さーん!」
「——穂乃果」
「あ、もう驚いちゃったよ。そんな真剣な顔して……って、ちょ、ちょっと海未ちゃん!?」
「——」
「そんな、きゅ、急に抱きしめられたらびっくりしちゃうよ! 私にだって心の準備っていうのが」
「穂乃果!」
「は、はい!」
「すごく……ああ、こんな言い方しかできなくてすみません。すごく、素敵、だと思います」
「海未ちゃん……」
「これは、私たちのこと、ですね」
「……うん。いろんなことがあって、ここまでやってきた、私たちのこと、かな」
「いろんなこと——ありましたね、本当に」
「そうだね。それでさ、きっとこれからもいろんなことがある、って思うんだ。そういう私の気持ち、なのかも。……おかしい、かな」
「そんなこと言ったら怒りますよ! おかしくなんかありません。穂乃果が、穂乃香の気持ちが、ちゃんと伝わるとても素敵な歌詞です」
「……ありがとう、海未ちゃん」
「みんなに早く見てもらいたいですね。いつ完成するのですか?」
「え、いや、そんな、まだもうちょっと……かなあ」
「それでは困ります。次のライブに間に合わなくなってしまいますよ?」
「ちょっ、次ってそんな! 無理無理、絶対無理だよ!」
「いつも散々急かされてますからね、これはとてもいい復讐の機会だと思いませんか?」
「海未ちゃん、目が笑ってないよ……?」
「冗談です」
「……」
「冗談ですが、何か?」
「そ、そうだよね。うん、冗談冗談。うんうん」
「まあ、それはともかくとして」
「……うん」
「本当に、歌ってみたいです」
「海未ちゃん」
「タイトルは決まっているのですか?」
「あ、うん! それは最初っから決めてたんだ」

 ——これからもきっと

「えっとね」

 ——変わりながら

「『僕らは——」

 ——ずっと続いていく

「——今のなかで』!」

 ——私たちの、今。