時よ、止まるな

楽聖少女3 (電撃文庫)

楽聖少女3 (電撃文庫)

それが「終わる物語」だというのは、始まった瞬間から定められていたのは確定的に明らかで。
だってもう、そうじゃないですか。
ベートーヴェンを美少女にしてやったぜ!、な物語のガワはさておき、主人公が主人公である以上、いつか戻らないわけもなく、ならばこれはいつも通り、杉井節のうなる「終わる物語」でないはずはなく。


作中でメフィが囁くように、ここで時を止めてしまえば幸せである、という瞬間はあまりにもありふれていて、外側にいる読者としては実のところそれはあまりに簡単。
ページを繰るのを止めればよい。
本を閉じて、伏せて、大事にしまっておいたり、あるいは手放してしまったり、ともかくそこで時を止めてしまうのはあまりにも簡単である。


……がしかし。
よせばいいのに、やはり僕らはその行く先を見届けたくなる。
笑っているだけでいられるはずもないと知っているのに、手は止まらないし、目は文字を追い続ける。
きっとそれはある種のろくでもない行為なのだけれど、それでも、やっぱり、なあ。
立ち止まってしまっては見られないものがあまりに多すぎて、一つところに寄って立つには世界はあまりに広すぎる。
終わる世界のその先に、受け継がれるものを見たいと願うのは、さていいことなのか悪いことなのか、どっちなんだろうねえ、とか。


うん、まあ九割くらい本編には関係ない話。
この物語は、もっときちんと「終わる」と思うよ、きっと。
だからそれまで、歩き続けよう。
昔はよかったでも、今が楽しいでもなくて、未来が知らないもので満ちあふれているように。