『サエズリ図書館のワルツさん 1』(紅玉いづき)

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

これについては書けよ、とプレッシャーを受け、さりとて何かをふにゃふにゃと書き綴る場所も他になく、ということで。
さて、さて。


まず初めにお断りを。
僕は自身ではそんなにおかしいとも思っていないのですが、世間一般ではわりと奇人変人に部類される、「年間1000冊本を読む人」です。
これを証明しろと言われると、なかなか困難というか実質不可能に近いので、そんなわけねーだろと言われるとどうしようもありません。
がまあ、そうなんだから仕方がないということで、以下、これは「そういう人間」の書いたいささかひねた何かである、とご承知おきいただければ。
ついでに電波も多分に含まれていて、かつ、感想でも評価でもなんでもない何か、なのでご注意を!


予防線はもう張ったからね、あと知らないからね。
さておき。
『すべての書物への未来譚』
帯の惹句です。
初見時は、ふかしたなー、と正直思いました。
未来譚のルビがラブソングだし。ラブソング。ラブソングて!
しかし一方で、まあ何ともらしい、という部分もあったりして。
なんとなれば、わりとこの方の「あとがき」はそういうノリだったりするからです(こうぎょくじゃないよべにたまだよノリも好きですが)。
余談ながら、僕はデビュー作『ミミズクと夜の王』のそれがいっとう好きで、発売時に新幹線の中で読んでしまい、わりとたいへんなことになりました。
どうたいへんだったかとか、そのとき何を思ったか、を勢い任せに書き綴った、個人的に大変恐ろしい何かもネットの海には転がっていたりします。
本人は消したのに、拾い上げてくださいやがって人もいるので。
まったく。探さないで下さい。


閑話休題
……というか一切まだ本題に入っていませんね。
ともあれワルツさん、です。
1、とあるのできっとシリーズでしょう(世の中にはそれを信じて地獄を見ることもありますが)、そしてこのシリーズを僕は「ワルツさん」と呼ぶと思います。
「サエズリ図書館」、ではなく。
どちらが主で従か、というのは、当のワルツさんに尋ねてみれば、図書館の方ですよ、と答えてくれる気がしますが、個人的にはやはり彼女の物語だと思います。
頭から尻尾まで。


物語は、きっと今よりほんのすこうし先、「本」の持つ意味が変質してしまった世界が舞台。
と、この説明も果たして正しいかは微妙なところです。
きっと、世界規模では変わってしまったのでしょう。
けれど、何も変わってはいないと、そう信じている人たちもいる、そういう話、でもあります。
そんな世界の片隅、サエズリ図書館という名のちょっとした(でよいかどうかはさておき)蔵書を誇る図書館で、特別探索司書のワルツさんと、そこを訪れる人々の交流が描かれます。
図書館だからといって、本好きだけがやってくるかといえばさにあらず、第一話のカミオさんは当初はただのドジっ娘だし、第三話のモリヤさんはいけすかないめがね(!)です。
ただ、誰もがワルツさんとのやり取りの中で、答え……とまではいかなくとも、一定の何かを得ていきます。
「本」とはなんであるか、なんになれるのか。
そして、彼ら彼女らはこの場所の常連になっていきます。
押しつけではなく、自分の意志で。


さて、そしてワルツさん、です。
この世界の置かれた状況、彼女自身の成り立ち、そういうものがある、ということを踏まえたとしても、どこまでも「本」を大事に想う人です。
本が本であることに、ただ紙の上に垂らされたインクではないことに、意味と意義を見いだす人です。
この一冊でも、幾つか結構な障害に向き合うことになる彼女ですが、信じているから譲らないし、折れないし、凛としています。
そこに誰もが魅せられていくことになります。
その眩しさに。


前述の通り、僕は「年間1000冊本を読む人」、です。
では彼女とまったく同じ考えかと訊かれると……そうではありません。
だいじなものである、そこに違いは(たぶん)あまりないとは思います。
ただ、僕はこれで別に「本」というものに対して、こだわりはそこまでありません。
何かを物語るために、ただひとつの形式しかない、とは思えないのです。
舞台でも音楽でもドラマでもアニメでも、なんだってよくて、自分が好きなものを、自分が好きなように、好きであればいい。
僕にとってはそれが「物語」で、それを物語ることの出来るすべての手段が好きでありたい、と願っています。
作中でいえば、岩波さんのスタンスが一番近いでしょうか。
行き過ぎた執心は病だ——その言葉も含めて。


だから、あまりに彼女は眩しすぎます。
僕とは違うやり方で、僕より強く真っ直ぐに、それをあいしている彼女の姿は。
面と向かって見ていられないくらいに。
それでもきっと、サエズリ図書館という場所が存在するなら、ひっそりと、足繁く、そこに通うだろうという気はしています。
ワルツさんと言葉を交わすためではなく、むしろ避けるように、ただひとりの受け手として、見たことのない物語と出会うために。


そして最後にあとがき。
また、今回も不退転で斬りつけるようなあとがきです。
僕はまだ、そこまで悲観もしていなければ信仰もしていないけれど、それでも受け止めておきたい、あとがきです。


と、まあ例によっていつものように、感想でも何でもない何か、でした。
むしろ半分くらい内容と無関係ですが、多かれ少なかれ、本読みって本読みであることの意味、を考えてるんじゃないかと勝手に思っています。
ポジティブにもネガティブにも。
なので、好きなら好きでいいじゃん、好きって言ってみな、そういうシンプルなおはなし、かもしれません。
こんな素敵な司書さんは現実にいないとしても、
お近くの図書館で、
街角の書店の店頭で、
薦めてくれる誰かの声で、
あなたにとって大事な一冊に出会えますように。
そんなことを思いつつ、さて2巻はいつかな、といった辺りで。