本はもう出来たのに

いろんな意味でもう本当にいいじゃんと思うのですが。
がががが。



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「やあ、お疲れさま!」
「……なんでそんなに笑顔なんですか」


 思わずとげのある声になってしまったけど、今回は許されるんじゃないかな、と思う。というか、それより無駄ににやにやしてる目の前の先輩をどうにかしてやりたいです。おのれ。


「まさかまた電車止めちゃうとか、驚いたよ」
「誰も好きでやってるわけ……じゃなくて、僕が止めたわけじゃないんですけど!」
「またまたご冗談を」


 言い返したいところだけど、何を言っても無駄なのはわかってる。全部ただの偶然なんだけどなあ、もう。


「雨が降るのはしょうがないかなあ、って思ってましたけど……」
「そんなレベルじゃなかったからね。何年ぶりだかの集中豪雨にぶつかるとか、やっぱりお祓いでもした方がいいんじゃないの?」


 少しだけ声のトーンを落とした先輩は、心配してくれているように見えなくもない。
 でもこれでお祓いするのも、なんだか何かに負けた気分なんだよなあ。そりゃ確かに、ここのところは出かけるたびに雨だのなんだの、いろいろ巻き込まれてはいるんだけど。


「まあ、僕としては君をからかうネタが減るのは困るんだけど」
「結局ひとで遊びたいだけですよね、それ」
「そうとも言うかもしれない」
「そうとしか言いません」


 まったくこれだから先輩は。このろくでなし!


「でさ、お土産は?」
「……この状況でよくそれを聞きますよね」
「うん。この状況でも買ってきてくれる君を信じてるから」


 はいはい。
 買ってこなかったらうだうだ言われるのが目に見えてますもんね! ええ、ちゃんと買ってきましたよ!


「ん、ありがと。出来る後輩は違うなあ!」
「せめて棒読みはやめて下さい」
「気のせいだよ、気のせい」
「そうですか……別にどっちだっていいですけど」


 はあ、なんかどっと疲れが増した……わかってたんだけどさ。あーあ。


「それじゃ、今日はもう帰ります……」
「おつかれ! ……っと、ああそうだ、ちょっと待って」
「なんですか? どうせたいした用件じゃないんでしょう?」
「まあまあ、そんな怒らなくてもいいじゃん」


 誰のせいでご機嫌ナナメなのか、ご自分の胸に聞いてみたらいかがですか。


「僕のせいじゃないのは間違いないよね」
「大間違いだよ!」
「だから落ち着けって。うん、たいした用事じゃないのは認める。一言だけだし」
「……一言?」
「そう、一言」


 そこでわざとらしく一呼吸置いて、例によって無駄に爽やかな笑顔で告げる。


「おかえり」


 ……っとに、この人は。


「ただいま、です」


 絞り出したような僕の返事にも、それじゃ帰ってよし、とかなんとか言って、ひらひら手を振るだけの先輩。
 ほんっとコイツ、どうにかなっちゃえばいいのに! ……うん、まあ、あんまりひどくない範囲で!



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今日の外野。


「あれでしょ、どうせあんなこと言って、毎日気象情報見てたりしたんでしょう? はいはいテンプレテンプレ」
「また身も蓋もないことを……言わぬが花、ですよ」
「真実はいつだってそんなもの」
「でもでも、ホントに何もなくてよかったよね」
「どうせ慣れてるんでしょ、こういうの。まあ、ちょっとくらいは心配してあげたけど」
「へえ、珍しいですね」
「あら、当然じゃない。からかう相手がいないのって退屈なのよ?」
「同類じゃないですか……」
「類は友を呼ぶ」
「……ちょっと可哀想、かも」


ホント類友ですよね、いろいろ(遠い目