やまなしおちなしなかみなし
全部帰りの電車が止まったのが悪い。
しょんぼり。
でも別に電車が止まる話ではありません。
それでもよかったんだけど。
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「いや、よく降りますね!」
絶賛テンション下降中、という感じの先輩に気を使って、出来る限り明るく話しかけてみた……んだけど、電話の向こうから返ってきたのは、そりゃ台風だからね、というどんよりした返事だけ。うーん、気持ちはわかるんだけど。
「でもここまでくると逆に楽しくなりません? いっそ飛び出してやろうか、みたいな」
「ごめん、僕小学生とかじゃないんで」
……急にいつもの感じでばっさりだし。え、なにこれ僕が悪いの? そうなの?
「なんでまた直撃なのさ」
「それを僕に言われても」
「だってよく降らせてるじゃん、雨」
「ひとを祈祷師か何かみたいに言わないで下さい!
人聞きの悪い。ええ、別に雨男とかそんなのじゃないですよ。時々、ごくまれに用事を入れてた日が最悪の天候だったりするだけで。全然、もう本当に。はい。
「世間ではそういうのを雨男って言うんじゃなかったっけ?」
「あーあーあー、聞こえませーん」
そんな非科学的なことあるわけありません。もうちょっと現実を見て下さい。
「だからさ、その現実で大雨なんだけど」
「ああ言えばこう言う……!」
いや今のは僕悪くないよね、という声が聞こえた気がしたけど、全部先輩が悪いってことにしておいた。うん、きっとだいたいあってる。だいたい。
「まあいいけど。でもなんでよりによって今日なのさ、ホントに」
「こればっかりは仕方ないですよ。無理に出かけるほどの用事でもないし、また今度ってことで」
なんだか妙に落ち込み気味の先輩である。もう、しょうがないなあ。
「ほら、夏休みはまだ長いんですから、出かける機会くらいいくらでもありますよ。それに引きこもってれば好きなだけ本も読めるし、今日はガマンして下さい」
「あーあ、ひとが折角出かける気になってたのに」
「えっと……そんなに残念がらなくても、僕ら二人で行くとこなんてそんなにないですよね。本屋とか、本屋とか、本屋とか」
「本屋しかないのかよ!」
あ、笑ってくれた。やれやれ、変なとこで世話の焼ける人だよね、まったく。
「あんまり間違ってないと思いますけど? じゃあそういうことで、またそのうち」
「ん、今度はちゃんと晴れの日に、ね」
「なんか引っかかる言い方……」
「別に?」
「晴れだったら晴れだったで、すぐ暑さで倒れそうになるくせに」
「……何か言った?」
「いーえ、なんでも」
しょうもないわりに、どういうわけかだらだらと続いてしまう、そんなやりとり。端から見たら『何やってんだお前ら』なんだろうけど、やってる方はそこそこ楽しい、っていうよくわからない何か。名前をつけるようなものでもないし、つけてしまったらきっと違う何かになってしまうような気がする。
「えーと、それじゃもういい加減にこの辺で」
「はいはい、じゃまた今度」
どうせすぐでしょうけど——それを別れの言葉にして電話を切る。
さて、これで一日フリーになっちゃったわけで、となればやることなんて他になく。ちょっと大きくなってきちゃった本の山をどうにかしないと、ね。
まずはこの間先輩からオススメされた分から、ありがたく読ませていただきます。
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〜今回の外野〜
翌日。
「あら? 珍しくあの子来てないのね」
「ええと……その、風邪なんです」
「ふうん、元気さが取り柄なのに珍しいわ」
「……台風ではしゃいだって聞いた」
「うん、そんな感じ、かな。たぶん」
「なるほど、そういうこと。年頃の女の子がそれでいいのかしらね……まあ、かわいいからいいんだけど!」
以下お見舞いと称して繰り広げられる何かに続かない。