今日はダメな日

学園ネタに浸食されすぎたんだと思う。
最高に落ちてない。
ぶんなげっぱ!



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「……あれ?」


 部室のドアを開けて、そこに見慣れた姿がなかったことに、思わずそんなことを呟いてしまった。
 珍しい。僕より先に先輩が来ていないなんて、いつ以来だろう。部室の主……どころか、部室に住んでる、むしろ主、いやあいつこそが部室の王子様だ——いやこれはよくわからない——なんて言われている先輩である。これは本当に珍しい。


「まあ、そういう日もあるんだろうけどさ」


 席を外している、という様子でもなく、まぎれもなく、これっぽっちもひとかけらも、先輩の気配がない部室。
 ……いや、まあ、そういう日もあるんだろうけどさ。
 意味もなくそんな言葉を繰り返してしまう。なんだか、どうにも落ち着きが悪い。うーん。


「いたらいたでうるさいのに」


 そう、ちくちくとイヤなとこついてきたり、かと思えばしれっとびっくりするようなことを言ってくれやがったり。まったく、迷惑な人です、先輩は。
 なのに。


「いないと、なんで物足りないかなあ」


 軽口だろうとなんだろうと、日常的に言葉を交わしている相手がいないのは、少し——そう、ほんの少しだけ調子が狂う。やだなあ、こういうの……


「いいや、今日は帰ろっと」


 何か読むにも気分がのらないし、そう考えて振り返ると。


「……あー、まあ、なんだ」
「っ! 先輩!?」


 ドアノブをつかんだままで、所在なげにたたずむ先輩がいた。え、ちょっとなにこの微妙な空気、まさか……


「あの、先輩。ええと……いつから?」
「え!? いやついさっき! さっききたとこだから! 僕は何も聞いてない!」


 それは絶対聞いてますよねあなた。
 別にいいけど。いいですけど! ……ごめんなさい嘘ですよくないですなんか気まずいです!


「と、とりあえず入ったらどうですか?」
「あ、うん……えっと、もう帰るんだっけ」
「……いえ、もうちょっとだけいます」
「ふーん、そう……」


 なんだこれ。
 どうしようっていうかどうしようもないよ! なんでそこで帰らなかったのさ! バカ! 僕のバカ!


「なあ」
「あの」


 いやだからどうしろと。


「……なんか、読みますか」
「……読もう。うん、そうしよう」


 なんて、ぎくしゃくしながらそれぞれ手持ちの本を読み出したんだけど……やっぱり変に空気が重い。ずっしりだよ! 無理無理、やっぱりこれ無理だって!
 誰か助けて!