あんにゅい
自分で自分にお幾つですかと真顔で聞きたくなります。
が、僕はそういうヤツなので。
だってさ、そうじゃなきゃ四桁読むような病気にゃかかりませんって。
あ、あと今日のは過去最高にどうしようもないくらい自己満足です。
ある意味初めてか、そういうの。
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「雨だなあ」
「雨ですね」
しとしとと、音もない雨が降り続ける毎日。いわゆる梅雨、というやつである。別に雨が嫌い、なんてわけじゃないけれど、さすがにこうも続けば少しは気も滅入ってきたりする。
だって。
「持って出るだけでしなっとしちゃうんですよね」
「気をつけてるつもりなのにさ」
そう。湿気だけでふにゃっとなってしまうのだ。本が。別にそれでなにがどうなるわけでもないのだけれど、気になるのはやっぱり気になる。じゃあ持ってでなければいいじゃない、そんな話もあるけれど、まさか読む本もなしに出かけるなんて、そんなとんでもない!
ともあれ。
そんな季節でもやっぱりやることに変わりがあるはずもなく、今日もこうして部室に二人して引きこもって黙々と本を読んでいる。会話なんて思い出したようにぽつぽつとしか交わさないけれど、僕らの距離感なんてそんなもの、これくらいでちょうどいい。
「……先輩」
……その、はずなんだけど。
どうしてだか、今日はそんな沈黙がどこか気になってしまった。どうにも集中出来なくて、読んでいた本から視線を外して、ちらと向かいを見やる。そこには、黙々とページを繰りながら、あとで感想に使うのだろう、さらさらとメモを取っている先輩の姿。なんというか、妙に様になっているのは、長らくそれを続けてる積み重ね、になるのだろうか。
「んー、なに?」
それでもって、返ってくるのはもう全然全く気のない返事なのだけれど、これはまあしょうがない。こっちの都合で一方的に邪魔してるみたいなもんだし。
「ああ、いえ、その」
うーん、何を言うつもりだったんだろう。あらたまって考えてしまうと特に言葉が出てこない。仕方がないので、すごいですよね、なんて適当に誤魔化してみる。
「読むのと書くの、それだけ続けてられるのって」
「別に、慣れちゃえばどうってことないけど。それを言うならさ」
そっちだってそうじゃないの、と。視線は本に落としたまま、ぴっ、とシャーペンでこちらを指してくる。
「僕はそんなたいしたもんじゃないですよ。ただ読んでるだけですし」
「ただ読んでるだけ、ねぇ。それでサウザンドマスターとか呼ばれたりしないと思うけど?」
「もう! だからそれやめてくださいって言ってるじゃないですか!」
むずむずするその『二つ名』(いやそもそも二つ名って!)を、愛されてるよねー、とこっちもみないで口にする先輩。あーもう!
「これでも結構大変なんですからね。読み飛ばしてるんだろーとか言われても、言い訳も証明も出来ないし……」
そうなのだ。冗談と思えばただの冗談だけど、いろいろあったりなかったりはするのだ。思わず、はあ、と溜息をついてしまう。
だけど。
「ふーん、それで?」
なんでもないことのようにそう言って、こちらを向いた先輩が笑った。
「読み飛ばしてるの? 君のことだからしてないよね、そんなこと。だったらいいじゃん」
結局、それは自分だけが知っていればいいこと、なのかもしれない。
どんなふうに好きで、どれくらい好きで、どうやってともにあるのか。
誰かにわかってもらうようなことじゃなくて、だからこそせめて、自分だけはちゃんと知っておかなくちゃいけない——そういうこと、なのかもしれない。
……んだけどさあ、それをこんなふうにさらっと言っちゃうかなあこの人は!
「でしょ?」
「っ、まあそうなんですけど……」
「ん。よし」
話はこれでおしまい、というように、再び視線を本に落とす先輩。その様子に、くやしいんだか嬉しいんだか、いろんなものがないまぜになったよくわからない気持ちに突き動かされるように、
「じゃ先輩はどうして、」
感想を書くんですか——そう聞こうと思ったのだけれど。
「……いえ、なんでもないです」
少しだけ考えて、やっぱりやめた。それこそ聞いてどうなるものでもなし、先輩の理由も想いも、先輩が知っていればいいこと、なんだし。
だから代わりに、
「雨ですね」
冗談めかしてそう言ってみた。返ってくるのは、雨だなあ、という短い言葉。
しとしとと、いつまでも雨は降り止まないけれど、こういう時間が、僕は嫌いじゃない。