明らかに迷走
最初思ってたのと全然違う方向に走っていった。
というかこれ、もはやDでもkでもなんでもない。
余談ながら、でもオリジナルを書く、という意識は自分の中に全然ないんだよなあ……
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「会場の場所がよくわかんないんだけど」
今思い出した、とでも言いたげな様子で、先輩がそんな台詞を口にした。
ええと、それ明日の話ですよね? だいぶ前からライブに行くって決まってましたよね?
「細かいことは気にしなくていいからさ」
「いや細かくないですよねそれ。なんでまたこんなぎりぎりなんですか……」
忘れてたから仕方ないって、ああもういいです。どうせ言うだけ無駄なんでしょ、そういう人だって知ってますから。
「現地集合で大丈夫だって言ってたじゃないですか」
「そのときはそのとき、今は今」
さいですか。っていうか、どうしてまたこの状況で無駄に偉そうにするかなあ……
「連れてってよ」
「無理です。時間まで予定入れちゃってますから」
そんな、僕だっていつもいつもあなたとつるんでるわけじゃ……あれ? ないよね? そうだよね?
「いいじゃんケチ。僕が道に迷ってもいいっていうの?」
「迷うこと前提なんですか?」
「僕を誰だと思ってる!」
誰って先輩は先輩でしょうに。あとそこ威張るとこじゃないです、絶対。間違いなく。
「じゃあいいよ、連絡先教えといてくれればメールするから」
「はあ……わかりました、じゃどうぞ」
「ありがと。……うわ何これ長いよ! 打つのめんどくさい!」
「いいじゃないですか他人とかぶらないし……」
めんどくさい人だなあ、と思いつつ、それじゃと先輩のアドレスを見せてもらえば。
「あんた僕より長いじゃないか!」
「まあ、そういうことだってある」
「だからなんで偉そうなんだよ!」
ああもうめんどくさい! このデジタル時代になんでこんなアナログなことでぎゃーぎゃー大騒ぎしなきゃいけないんですか。まったくもう!
「そうだ。ほら、あれでいいじゃん」
「なんですかあれって」
「だからさ、赤外線通信? とかいうの? あれなら楽勝でしょ」
「あー、そんなのもありましたね……」
うん、まあ、そりゃデジタル時代ですし? いろんな機能ありますよね。……機能は。
「……じゃ先輩からどうぞ」
「……ここはそっちから」
「いやいや」
「いやいや」
微妙な譲り合いの後に、気まずい沈黙。
これはその、もしや。
「先輩、つかぬことをお聞きしますが」
「……なにさ」
「赤外線通信ってやったことあります?」
再度気まずい沈黙。
あれだよね、今日はよく天使が通るってやつだよね!
「わかってて聞いてるんだよね……?」
「いえその、やっぱり……?」
泳いでいた互いの視線が、おそるおそる、しかし確かに真正面から重なって、そして。
「そうだよ初めてだよ! そんなに友達いないしね! 悪いか!」
「誰も悪いなんて言ってませんから! っていうか僕もそれは一緒ですしね!」
——ああ、言ってしまった。
ぐさりと突き刺さるその現実。
いやね? いくらなんでも全然いないってわけじゃないんだけどね? ホントね?
「……もう、紙にでも書いて渡せばいいか」
「ですね。これ以上余計なこと言っちゃう前に、そうしましょう」
はあ、と溜息一つついてから、さらさらさらと文字が綴られた手帖の切れ端を受け取る。む、なんだろう、ただのアルファベットと数字なのに、どういうわけかやけにきれい。
「先輩、きれいな字書きますね」
「ん、まあ一応習ってたし」
「へえ……」
たいしたことではない、のかもしれないけど、なんとなく尊敬の眼差しで見てしまう。だってもう、僕の字と来たら、
「きったない字だなこれ!」
「言わないで下さいよもう!」
ええわかってます、わかってますよ。自分でもひどいって思ってますから。でもいちいち言わなくていいじゃないですか……
「ま、味のある字ってことでいいじゃん」
そう言ってにやっと笑って見せてから、じゃ、とこっちの返事も待たずに歩き出す。なんかもう勝手だよなあ。
「まったくいつもいつも……っと?」
そんな投げやりなぼやきを口にしたかしないかのうちに、突然ぶるぶると震え出す携帯を見てみれば、新着メールが一件。差出人はといえば。
「……なんですか先輩、もう」
そこにあったのは、明日はよろしく、という短い文面。だからどうということもないんだけど、何故か許せる気がしてくるのはどうしてなんだか。結局甘いんだよなあ、あの人に……
「退屈しなくてすみそうなのはいいですけど」
誰も聞いていないのに、そんなことをつぶやいてしまう自分苦笑いしつつ、こちらも短い返事を書いて送信、こちらこそ、と。
ああでもホント、頼みますよ先輩。迷ったりなんてしないでください、ね?
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ゆるゆると、日常。