やってきたよ! でるたさん。

まあ書くって言いましたのでね。
下敷きがあると書くの楽だなあ、というのと、ホント僕キモいですね、というのと。
ばくはつしたい。



                                                                                    • -


「いや、よかったですよホント」


 無駄ににこにこしながらそんなことを言われたって、行ってない僕はなんとも返しようがない。しょうがないから、はいどうぞ、なんて差し出されたお土産を黙って受け取って、取りあえず口に運んでみる。……あ、わりとおいしい。わかってるじゃん、僕の好み。


「よくそんなしょっちゅう行くよね……」


 まあ、そんなこと思ってても口に出すわけないですけど?
 それに、そこまでの熱意っていうか、そういうのは正直よくわからない。そりゃ見てれば楽しそうだってのはわかるよ。でもなあ……


「どこで見たって同じじゃない? だったら近い場所の方がいいなあ」
「違いますって。同じプログラムだって、『そのとき』はやっぱり『そのとき』にしかないですよ」


 そういうもの、だろうか。その感覚に馴染みのない僕には、やっぱりどうしてもついていけない。
 ——ただ。


「先輩も行けばわかります! そのうちどっか行きましょうよ」


 ほんと、無駄に楽しそうに言うもんだから。
 少し、そうほんの少しだけ、うらやましくなってしまったりも、するのだ。


「あ、もういっそのこと作家さんのサイン会とかでもいいですから。ああほら、今度こういうのが……」
「……いや、それこそ近場でいいんじゃないの?」


 ものには限度ってもんがあると思うけどね!




 なんて会話を交わしたのが、きっとよくなかった。
 くだんのサイン会、受け付け開始の一時間も前から電話の前に張り付いて——無意味って言うな! 気分の問題なんだよ!——結局ものの見事に確保してしまったのだ。


「どうしよう……」


 おいおい、なんだよ、これ。
 全然、まったくちっとも柄じゃないって自分でも思うんだけど。
 どきどきするじゃあないか。
 ——だから。


「サイン会の整理券、取ってみたんだけど……」
「わ、すごいじゃないですか! 今回は1カ所でしかやらないって話だったから、争奪戦すごかったんですよね、これ」


 おおー、と、なんだか妙に敬意の念がこもった眼差しで見つめられると、うんもう疲れた、行く前から疲れた、もういいかな、なんて思ってもいない言葉を返してしまった。ああいやだからさ、
今言いたいのはそういうことじゃないんだってば。
 だから、僕は。


「何言ってるんですか、もう……せっかく直接送り手さんにありがとうって言える機会なんですから、ちゃんと準備して行ってきてくださいね!」


 行ってきてくださいねって……まったく何言ってるんだろうこいつは。僕の言いたいことを全然分かってない。
 あのさあ。


「行くんでしょ?」


 せいぜい呆れたように言ってみたそんな台詞に返ってきたのは、思いもよらない返事。


「え? 何がですか?」


 は? おいおいちょっと待てよ、遠征王とか呼ばれちゃってる君が、いったい何言ってるのさ。


「だから何がって、どうせそっちも行くんでしょって話。だったら連れてってよ、僕こういうの初めてだし」


 慣れてるんでしょ? 頼りになるなー、なんて、おかしなテンションの言葉までおまけにつけてしまった。
 なのに。
 なのにさあ!


「あの、先輩?」
「ん? なに? 旅人部の先輩からビギナーの僕にアドバイス?」
「何ですかその部は。いやだからそうじゃなくて……その、僕、行かない、ですよ?」
「……え?」
「今回は正直厳しいかなって思ってて、最初っから諦めてたっていうか……」


 まったくどういうつもりなんだろうこいつ!
 あれだけ人を煽っといて、自分は知らん顔だなんて信じられるか!
 ばか! ばかばか! ばーかっ!


「……そっか、僕にはこんなのあるよってその気にさせといて、行かないんだ」
「その気にさせるって……別に一人で行ったらいいじゃないですか。大丈夫ですって、別に取って食われるわけでもなし」


 へー、ふーん、そうですか。いいですよーいいですけどねー。これでも僕はさー、


「信じてたのに」


 ひとりでどっか行ったってつまんないじゃないか。たとえそれがちっとも気の利かない君でもさ、一緒に来てくれれば少しは楽しかったりすることもあったりなかったりするんじゃないかなって、そう思ってたのにさ。
 あーあーもういいもんねー、ひとりで行っちゃうもんねー、君なんて寂しくお留守番でもなんでもしてればいいんだ!


「行けばいいんでしょう? 行けば」


 ……え?
 いや、だって、整理券一枚しかないし。いくら君がほいほいどこでも行っちゃうちょっとアレな人だからって、そんな。


「いいです別に。付き添いでもお供でもなんでもします! もう決めました。ダメって言ってもついて行きますからね!」


 だから、そんな小動物みたいにおどおどしないでくださいよ、もう、とかなんとか口にするその視線は、なんだか保護者ぶっている。……む。こんこんのくせに生意気な。


「そう。来てくれるんだ」


 だから、ほんの少しだけ弾んでしまった声の調子を押し隠して、たまにはこの小生意気な友人に何かしてやろう、と考える。ふん、こんなこともう二度とないんだからな! 感謝しろよな!


「……あ、じゃあそうだ、サインは僕の名前じゃなくてそっちの名前でもらうとか」
「アンタそれ何しに行くんだよ!」
「なんだと!」


 ひとがせっかく感謝の念を表してやろうと思ったのに!
 いいよもう、せいぜい僕のために道案内でもなんでもして、役に立ってみせるがいいさ!
 ばーーーーかっ!



                                                                                    • -


実在のでるたんとは大幅に異なります。
用法用量に気をつけて服用下さい。