『双界幻幽伝 出逢いは前途多難!』(木村千世)

双界幻幽伝 出逢いは前途多難! (ビーズログ文庫)

双界幻幽伝 出逢いは前途多難! (ビーズログ文庫)

珍獣系ひきこもりたがりヒロイン。……なんて書いてしまうと、うん?、という感じですが、少なくとも作中の言葉を借りるならそうなります。
死者の霊魂――幽鬼が見える代わりに、自称「胡乱で脆弱で粗忽で弱腰で陰気で愚鈍で阿呆で田舎ものの引きこもり」ヒロイン、姚朧月。
珍獣、という表現はさすがにどうかなと思いますが、その小動物のようなあたふたっぷりから、後ろ向き街道まっしぐらの言動でのっけから笑わせてくれます。
最初は困り顔の表紙イラストなんて珍しい、と思いましたが、読めばわかります。
むしろそっちの方が彼女らしい。
その一挙一動が楽しい作品、こういうノリはたいへん好きです。


とにかく彼女のわたわたっぷりでぐいぐい引っ張る展開。
これがなんとも一々本当に楽しいんですよね……そりゃ囲っていたくもなろうというもの。
表紙に限らず、イラストの大半がおっかなびっくりな様子なのも、また。
とはいっても、もちろんさすがにそれだけでもない彼女なのですが、その辺りは実際に見ていただくものとして。
ベースがコメディらしく、脇を固める面々もそれぞれに愉快。
お約束の妹溺愛お兄ちゃんに、気さくな幽鬼の友人、ちょっぴり強面のお相手に、飄々としてつかみ所のないお相手その二、そしてもふもふの神獣さま。
もふもふ白虎な張さんは、神獣というよりむしろ普通の人なんですが、イラストもちゃんともらえて、役柄としてはおいしいところ。
さすが抱きつきたい男部門一位。惚れる。


にぎやかにコミカルに、けれどストーリーのメインたる、宮中を彷徨う幽鬼のエピソードはきっちりと物悲しいそれ。
ノリで引っ張るのが基本としても、緩急攻守、そのバランスが心地良く。
微笑ましいエピローグも含めて、「天然公主」の魅力を十分楽しませてもらいました。
これは続きが見たいなあ。