『山本くんの怪難 北陸魔境勤労記』(雀野日名子)

――福井県、ああ福井県福井県。北陸魔境勤労記、の副題通り、抑える気も隠す気もない北陸愛が溢れ出ています。
それも、田舎はいいところ、なんてお題目ではなく、むしろどっちかといえばその「どうしようもなさ」をメインに据えたようなそれ。
どんづまりの町おこし、北陸他県他都市との戦国の世から続くライバル意識。
それらを下敷きにした怪異うごめく騒動は、端から見ればどこか滑稽なその姿……なのですが、それ故にひしひしと伝わる魂の叫びがある、ような。
ないような。


一話こそ、全体の核となる「しーちゃん」エピソードはあってもやや重い足取りでの幕開けでしたが、それは山本くんもまだまだ福井に慣れていなかったから。
ずぶずぶと引きずり込まれるように、彼が土地に馴染んで(周囲に流されて、とも言う)いくにつれ、段々とエンジンも暖まってきます。
最終的には一大怪異大決戦、みたいなノリにまで到達してしまいますが、それでもやっぱりベースにあるのは「福井県」という土地のあれこれ。
なにせ、エピローグからして文字通りの独立王国の勢いですし、あれ。


ストーリーのメインにも大きく関わる、辣腕部長・経塚さん、という非常においしいキャラを配置しておきながら、その本領を発揮させる場面を絞っているのがいいアクセント。
あの人最初っから本気で動かしてたら、話が速攻でエンドロールっぽいですし、ちょこちょこしか顔を出さないからこそインパクトも大、過去エピソードもぐっとくるというものです。
おかげで、何かと主人公の山本くんは振り回されるは、ヤな上司につかなきゃいけないわ、いろいろと散々でしたが。


しかし、実際「北陸」の各県の関係はどんなもんなんでしょうか。
又聞きエピソードでは、決して本作のあれこれも大袈裟ではない気もするのですが……
やはり他県他都市から見ると、加賀百万石は倒すべき敵なのか。


ともあれ、単に「ローカルネタ」というわけではないのに、強烈に福井という土地のインパクトを植えつけてくれる作品です。
いくらなんでも実際そんなことはないだろう、という話ですが、行ってみたいような、みたくないような、なんとも言えない気分に。