『人形草紙 桜下の誓いと散華の絆』(紫月恵里)

人形草紙 桜下の誓いと散華の絆 (一迅社文庫アイリス)

人形草紙 桜下の誓いと散華の絆 (一迅社文庫アイリス)

七宝と呼ばれる七体の人形と、それを操る七宝士という存在。
彼らのみが抗しうる、人の邪念から生まれ出た「鬼」の存在する世界の物語。
帯には「和風ラブファンタジー」とありますが、むしろラブより和風ファンタジーがメイン。
主役の二人だけでなく、脇を固める面々にもそれぞれエピソードがあって、わりとがっつりしっかり。
いいなあこれ、と素直に。


いやこれ入選作なの?受賞作じゃないの?、というのが正直なところ。
そんなに重要なお役目なのに、わりと市井の暮らしだよねとか、「真相」に至るまでにもう一つ二つエピソードを、なんてちょっとした不満はあれど、デビュー作補正を抜きにしてそこまで気になるレベルではなく。
これは先が(シリーズとてあるとしても、完全新作としても)楽しみだぞ、と。


七宝の面々がイケメンなのはある意味お約束としても、主人公がキャッキャウフフするだけのお話、ではありません。
七宝士にまつわる設定はなかなかえぐいものだし、そこをただ陰惨に描くのではなく、うまく織り込んだ展開はなかなか。
ここは「え?そっちなの?」的な印象も人によってはあるかと思いますが、終盤の展開ありきならこうなるだろうなあ、という感じで。


エピソード的には、脇役及び主人公を見守る年輩サイドが好き、なので檀さん組押しで。
黒金白銀もほぼワンシーンのみの出番ですが、あそこがよい。好き。
主の命に従うだけの人形ではなく、人の意を汲み意志持つその姿。
もちろんそれは、それぞれの七宝たちの姿でもあります。


ここを、というシーンがどうにも切り出しにくいのですが、とにかく全員に見せ場ありです。
七宝・七宝士の面々は当然として、脇役だと思っていたあの人まで。
デビュー作でこれなんだから、まだ出てきていないペアもいるので、その辺り込みで続編が出てくれないかと期待。


……あ、約一名見せ場ない人が……でもあれはフォローもしようがないしなあ。
よしんば続編があって、悪役的に登場してくれたらもう惚れるしかない。
けど無理か、さすがに……