『wonder wonderful 上』(河上朔)
- 作者: 河上朔,結布
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2008/09/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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そんな物語は、様々なバリエーションを含めて、世に充ち満ちています。
ただ。
世界を救う勇者でもなく、王子様に見初められるお姫様でもなく(その役は既に妹が果たしている)、二十代後半のごく普通の女性がぽんと放り込まれて、苦難に見舞われつつも成長していく、なんていうのはあんまり、ない。
これはもうガツンとやられました。
まだ上巻でしかないのですが、とにかく圧巻の一言。
まずのっけから、召喚先の世界の優しくないこと。
後々いくつかの理由こそ説明されますが、そこを抜きにしても本当に優しくない。
素性の分からない人物が城に転がり込んでくれば、警戒するのも当然と言えば当然として、素性が分かってからもこれまた厳しい。
加えて主人公・こかげも気ぃつかいで、自分を一歩後ろに置いてから行動するものだから、さらに輪をかけてきつい。
誰のためにとか、何のためにとか、それが「理解出来てしまう」ことの苦しさ。
町へ降りたところとか、ふっと肩の力を抜いて、笑うことの出来るシーンもあるけれど、とにかく泣きたくなるような展開が続きます。
でも、それはやり方こそ不器用で分かりにくいものの、それぞれに忠誠を尽くすべき相手への「優しさ」ゆえ。
こかげも含め、ここでは誰もが過去に手痛い失敗を味わっていて、二度とはその轍を踏まないための行為なのです。
ただもう、本当に誰もが不器用なので、互いの思いが通じ合うまで時間はかかったし、その間もう苦しくて苦しくて、繰り返しになりますが泣きたくなります。
というか泣きます。
多分それがある程度「大人」の視点で、だからこそこの世界を救ったのは「子供」であるひなただったんでしょう。
手をさしのべる、並んで歩く、ただそれだけの簡単なことが、どうしてかこんなに難しい。
そしてだからこそ、こんな簡単なことが出来ただけで、泣いてしまうくらいに嬉しい。
大人って、損しているようだけど、ここからまだ歩いて行ける先がある、どこからだって成長は出来る、素直にそう信じられます。
とにかく、もう終始圧倒されっぱなしの展開。
それなりの覚悟を持って負けないように、あるいは負けたらいったんブレイクしてでも最後まで、どっぷりと漬かって挑む価値は十分すぎるほどにあるお話。
上巻でこれなのだから、下巻が末恐ろしくもあります。