『織田信奈の野望 5』(春日みかげ)

織田信奈の野望 5 (GA文庫)

織田信奈の野望 5 (GA文庫)

ここに至り、遂に物語は産声を上げる。
これまでが面白くなかったわけじゃない、ただ、今回は決定的に何かが違う。
——ああまさか、こんなふうに「未来」を扱う作品になるなんて、と。
序盤はおおむねいつものように、新顔姫武将の幼女滝川、男前信玄にまたよくやるなあ、と思っていたのです。
それが。
中盤以降、戦が進むにつれ、これはそれどころではないぞ、と。


「未来」を知る良晴が、ある意味でそのアドバンテージを決定的に捨てました。
それは未だ来ざる時、まだ白紙の可能性でしかない。
本当の意味で、この物語はここから始まる、そんな予感がして、ぞくりと。
そして模範解答が意味をなさなくなった以上、それぞれの想いと生き様こそが全ての道標。
誰も彼もが、自分自身を賭け金に、覇権の夢を見る。
かてて加えて、親子の情愛も、姫武将という存在だからこその恋慕も、何もかもを巻き込んでの展開は圧倒的。
エピローグにおけるそれぞれの一幕は、高らかな宣言にも見えます。
この道を選んだと、ここからこうやって始めるのだと。


あまり良い表現ではないかもしれませんが、ここはあえてこう書きます。
化けました。
ちょっとやそっとじゃない、大化けも大化け。
震えるくらいに熱く、哀しく。
「最後」はどうするんだろう、という、最初からあった不安はここに至って完全に消えました。
逃げず恐れず、本能寺は描かれることでしょう。
そこで一体何が見られるのか。
今から楽しみでなりません。
本当に。
本当に、本当に。