『狼と香辛料 XVI 太陽の金貨 下』(支倉凍砂)

表紙がすべてを物語っている、そう言ってもいいのかもしれません。
長い旅路に、ひとまずの幕。
何もかもがうまく回り始めた矢先の、前巻ラスト。
突然足下が崩れたような、あるいは後ろから刺されたような、そんな気持ちでやきもきと待ち続けた今巻。
その不安は、この表紙が吹き飛ばしてくれました。
それこそ太陽のような、彼女の笑顔。
コメントするのも野暮というもの。


さて、とはいっても作中はやはり不穏な幕開け。
時に血生臭い場面だってないわけではないこの話、いろいろと悪い想像はふくらむわけで……
ただ、そこはぎりぎりの目で、薄氷を踏むように最悪を避けて転がり出します。
傭兵の思考、商人の思考。
綱渡りするようなその駆け引きの中で、これまでになく「弱い」ホロの姿と、これまで以上に「強く」あろうとするロレンスの姿。
会話を重ねれば、最後はやっぱりいつもの関係だったりもするのですが、ああ、二人はずいぶん長い時間を重ねてきたのだなあ、そんなことを強く感じます。
うまくいっているときほど落とし穴はあって、どちらかが窮地に追い込まれれば、どちらかが必ず手を差し出す。
……うん、いまさら、ですね。本当に。
今回も「商人」とはなんたるかとか、理想と現実とか、いろいろとドラマは盛りだくさんだったのですが、ホロとロレンス、この二人のことを考えると、もう何を口にしても野暮な気がします。
彼女があの笑顔を浮かべるに至る軌跡を、実際に確かめて下さい、とだけ書いておきます。


ずいぶんと遠くまできたものだなあ、そんな思いがあります。
振り返れば、遙か彼方に懐かしい黄金の小麦畑。
さて、ともう一度視線を前に向けたとき——これまでの旅路と同じくらい、長く、波乱に満ちた、けれど確かに続いていく未来がそこに見えるような気がしています。
一つの旅はここで終わります。
けれど、新しい旅がまたここから、始まるのだと信じられます、といった辺りで。