『嘘つきは姫君のはじまり 少年たちの恋戦』(松田志乃ぶ)

お久しぶりの一冊、と感じるのは、去年ごそっと既刊を読んだからかどうか。
実際間隔も少し空いていましたが、何よりこういう展開だったから、というのもある気がします。
想い合いながら、京を離れた宮子と、残された次郎君。
その次郎君の動きが軸になって、お話としては大きく転機を迎えました。
すなわち、すべての始まりだった「嘘」、それが通じなくなったその先。
綺麗事だけではないし、何より次郎君は今回「悪役」とさえ言っていいほどの行動を取り、対し真幸は堂々とそれを受けて立ち、むしろ彼の真摯な、真っ直ぐな想いは目を背けてしまいたくなるほど。
ここだけ見たならば、真幸の方が……と思ってしまうのもいたしかたなし。
ただ、それでも二人が向いている先はもう決まっているし、だからこその決断と、ここからようやく始まる物語があるわけで。


そんな主役たちが一大転機を迎える中、今回一番ぐっときたのは有子さま。
もうほんと、いじらしい。
またこの人、なまじ事情が全部分かっちゃってて、それで動けなくてぐるぐる葛藤してしまうところが……もう……
届いて欲しい、というのと、でも真幸は、というこの二律背反。
読み手としての気持ちも相まって、本当にもどかしく、いじらしい。
なあなあにはしないお話なので、真幸がそれに気づいてから、もう一山あるとは思いますが、それまでは。


一方で、小さい姫君たちはまあ可愛らしいこと。
日の宮は相変わらず亀さんびいきだし、姫子のモノマネはもうどうすればいいいのレベル。
相撲は今回のMVPだと思います。
あの姉妹も良い味出してるよね。蛍の宮は早くくっついちゃえばいいんだ。


今回やや出落ち感のあった、刀のエピソードを引っ張りつつ、次は七月八月の連続刊行とか。
これは一気にクライマックスの予感。
半年先が早くも待ち遠しいところです。