『やおろず』(古戸マチコ)

やおろず  (レガロシリーズ)

やおろず (レガロシリーズ)

祖母の死をきっかけに、神様が見えるようになってしまった少女……と言ってしまうと、そこそこにありふれた設定にも思えてしまいますが、ところがどっこい。
彼女を取り巻く八百万の神々は、そろいもそろってどこかすっとぼけていて憎めない、主人公であるところの少女——澄香の言葉ではありませんが、「八百万じゃなくて”やおろず”」という表現がしっくりくるそれ。
彼ら彼女らの織り成すドタバタがメインの楽しい作品。
表紙折り返しの著者紹介にありますが、変化球に見せかけたド直球がそのものずばり。
大いに笑わせてくれて、それでいてしんみりもさせてくれるし、ちょっぴり泣ける、そんな素敵なお話でした。
折しもこれを書いている現在、2011年お正月まっただ中(もう終わりますが)、神社のお守りそれぞれ一つ一つに、ミニチュアサイズの可愛らしい神々が宿っているシーンは、なんともわくわくして微笑ましく。
脳天気な道祖神のもう一つの表情が垣間見られる第四章もよかったですが、やはり一番良かったのは家神さまの第六章。
彼の正体もさることながら、ラストのあの台詞はしびれます。
そうか、こうかけてくるのか、という。
エピローグの「覚えていない約束」もまた、柔らかく暖かく、じんとする余韻が素晴らしく。


とにもかくにも、いろんなあれやこれやがぎゅっと詰め込まれた一作、笑って泣いて、心から楽しめる作品でした。
文字通り、読めて幸せ。