『悠久のアンダンテ ―荒野とナツメの物語―』(明日香々一)

悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)

悠久のアンダンテ -荒野とナツメの物語- (GA文庫)

異形の「蟲」が闊歩する荒野。
人には討てぬはずのそれを、ただ一刀にて屠る青年。
かつて幼き日、彼に命を救われた少女は、歳月を経て再び彼と出会う。
しかし彼は記憶の中のそれとまったく同じ姿をしていた――


と書けば大抵の人がファンタジーだと思うでしょうし、実際ファンタジーです。
蟲がなんであるか、彼が何者かであるかはもちろん語られるし、ある種世界の危機を救う話でもある。
であるけれど、むしろ本筋はそこにはなくて。
走って走って、追いつけないはずのものに追いついた少女と、愚直なまでに真っ直ぐな青年の話、というのがそれ。
だからこそ、あえていろいろなことを描かなかったのであろう終章が映える。
足りないのではなくて、荒っぽくとも大事なところだけを削りだしたようなそれが、印象にのこります。


一冊ではもったいないくらい、作中で時間が流れます。
が、分けたら分けたで、この空気が失われてしまう気もして、やはりこれがベストなのかなあ、と。
いろいろなことが起きるけれど、総じてゆったりと、けれど確かに前に進む世界の、物語。