のーふゅーちゃー

りはびり、りはびり。



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「あのさあ」


 なんだか苦虫をかみつぶしたような顔をした先輩が、不機嫌そうな声で言う。


「別に僕、無理しろとは言ってないよね」
「ええ、まあ……一応?」


 どうもあんまり僕好みじゃない、ちょっと重たい空気になりかけたので、そんなふうにとぼけたみた……ら、ぎろりと睨まれた。う、これはもしかしなくても、わりと本気ということでしょうか、先輩。


「僕が本気じゃないことなんてあったっけ?」


 それなりに、とはもう答えられない。……でもなあ、これは結構しょっちゅうだったんじゃないかと思うんですけど。違います?


「それで、なんの話でしたっけ?」
「君ね……」


 いや、こうなっちゃうとこっちとしては逃げの一手しかないわけで。だってなんか怖いし。ほら、僕無理なんてしてないですよ?


「だーかーら! そういうのが無理って言ってるの、わかんないかな」


 あー……そんなマジメな顔で言われると、困っちゃうんですが。


「マジメな話だからせいぜい困れば?」


 ぬう。この切り返し、さすが先輩だな。気遣ってるんだか違うんだか果てしなく微妙なライン。


「……はあ。ホント、ほっとくと平気で暴走するよね、君。知ってたけどさ」
「褒めても何も出ませんよ?」
「言ってれば? もういちいち突っ込まないから」


 そっぽを向かれてしまった。さすがにちょっとふざけすぎたかな……でも、別に先輩に気をつかってもらうことなんてないんだよね、全然。


「そうなんだろうけどさ。でもやっぱり、言ってくれなきゃわかんないよ、さすがに」
「——先輩」


 なんというベタな台詞。
 なのに、実際言われるとこれはけっこう、きつい。自分に非があるとわかっているとなおさら。


「いいよ、もう。別にそんな顔させたかったわけじゃないし」


 そう口にしながら、先輩は席を立つ。


「だから、無理でも無茶でもないなら——」


 そして、ついでのように僕の頭をばふっと軽く叩いて。


「——これからも楽しみにしてる」


 んじゃ、と軽く手を上げて部室を出て行った。
 そして取り残された僕は、さて、どんな顔をすればいいものやら。


「こっちだって、別にそんな先輩のことなんて気にしてないですけど」


 ええ。そんなまさか、ねえ?


「いいですよ、そんな楽しみにしてるなんて言うんだったら、きっちりしっかりはっきり」


 ぎゃふんと言わせてやる。
 ……とかなんとか思いつつ。久しぶりに、僕は僕の日常を、またゆっくりと歩き出す。おっかなびっくり、一歩ずつ。



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たまには外野。


「はい皆さん! 今の見ましたか! 見ましたね! ごちそうさま!」
「まあ、取りあえずいい絵は撮れたんじゃないかと」
「お約束過ぎる」
「なんかちょっとどきどきした!」
「あら、だめよあの程度でどきどきなんかしてちゃ。だってもっとひどいときには——」
「え!? ええ、そそそそんなことしちゃってたの!?」
「それは初耳」
「そんなシーンが撮れたら一面間違い無しなのに……」


いやどんなだよ(お前が聞くなよ