あっさり仕上げ

お疲れなので速攻で。
こうやって、変に日常に絡めるから、なんだ日記かとか言われますがすべてはフィクションです。
すべては。


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「それじゃ、今日はもう帰るんで」


 文字通り部室に顔だけ出して、そそくさと退散しようとしたら、ちょっと待ってよと先輩に呼び止められた。む、なんですか。今日は早く帰りたいんですけど。


「今日の分、まだなんだけど」
「いや今日の分って……別に毎日書かなくても誰も困らないですよね?」


 ひらひらと真っ白な原稿用紙を振ってみせる先輩に、半眼で告げる。もちろん、それで聞いてくれる人だなんて思ってないけど。わりと時々とても空気を読まないです、この人。


「僕が困る」


「そんな真顔で言われても」
「なにさ、僕のことなんてどうでもいいわけ?」
「そういう問題じゃないでしょう……」


 ほんと、変なとこにツボがあったりするよなあ。これ、僕が悪いんじゃないよね?


「まあ、用事があるんならしょうがないけどさあ」
「全然しょうがなさそうに聞こえないです」
「それは君の気のせい。で、人の頼みも聞けないなんて、よっぽど大事な」
「ゲームです」
「……は?」
「いやだから、ゲームですって。ずっと楽しみにしてたヤツが、今日届いてるはずなので」


 じゃあそういうことで、と今度こそ帰ろうとしたら、


「うらぎりもの」


 ぽつりとそんな呟き。
 ……そこまで言いますかあなた。


「そーだよね。あれもこれも、節操なく手を出しちゃう君はとっても忙しいもんね。僕なんかのために割く時間はないよね」
「なんだこのめんどくさい人……」
「ええそうですよ、僕はめんどくさい人ですよーだ」


 なんだこれ。
 いろんな意味で置いて帰りたいところなんだけど、ここからさらにこじらせたらもう手に負えないよなあ、完璧に……


「短くてもいいですよね?」
「どーせさ……って、え?」
「だから、もう10分とかでばばばばって書いちゃうようなヤツでもいいですよね」
「いいよなんでも! 読めるなら!」


 これが最大限の譲歩ですよ、なんて台詞も準備していたけど、そんなもの全然必要ない先輩のはしゃぎっぷり。なんだかなあ。


「まったく、物好きですね……」
「あ、そういう言い方ないんじゃないかなあ。書くのは君なんだから」


 だから、急に真顔になってそういうこと言うのはやめてほしいんですけど。なんかほら、心臓に悪いじゃないですか。ずきん、って。


「それはどうも、ありがとうございます。じゃ、ほんとにぱぱっと書いちゃいますからね」
「うん、待ってる」


 付き合ってあげてるのか、それとも乗せられてるのか、どっちなのかな、実際。
 ——まあ、別にどっちだっていいんですけど、ね。