夜のテンションは恐ろしい

こんなの書いてるからリリカルとか言われるんですよ。
でもいいじゃん、別にそこに/それに夢見たって。
現実はもっといろいろアレなのは重々承知ですが、それでもこちとら物語喰って生きてきたんです、これからだってそうやっていくよ。
きっと。



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「うーん……」


 真っ白な原稿用紙の前で首を捻る。んー……何も考えてない間は楽だったけど。


「ちゃんとしたお話を書ける人って、すごいんだなあ」


 何を今更、なんだけど。
 こうしてあらたまって向き合ってみると、それがどれだけ難しいかわかる。行き当たりばったりに、思うがままに書き殴るだけなら、きっと誰にだって出来る。
 だけど、それを意味のある物語にしようと思ったら。
 考えなくちゃいけないこと。
 伝えたいと思うこと。
 きっと、そんな大切な何かが、たくさん必要になる。


「——だから、好きなんだけど」


 僕の知らない何処かの誰かの、願いを集めて出来たもの。
 『物語』がそういうものだからこそ、泣いたり、笑ったり、まあ時にはなんでだよと思うこともあるけれど、やっぱり、僕は物語が好きなのだ。


「いつか、書けるのかなあ」
「もう書いてるんじゃないの?」
「っ!? せ、先輩?」


 そんなちょっと小っ恥ずかしいことを考えていたら、不意に背後からかけられる声。うぅ、びっくりさせないで下さいよ先輩……


「書けるも書けないもないでしょ、あれだけやっといて」
「いえその、そういう意味ではなくてですね」
「どういう意味だっていいじゃん。っていうかさ、なんだかんだ言いながら、今だってまた書こうとしてたでしょ?」
「……それは」


 どう、なのかなあ。やっぱり僕自身は違うと思うんだけど。


「で、今日のまだ?」
「見ればわかるじゃないですか。真っ白ですよ」
「あっそう。んじゃ待ってるから、出来たら教えて」


 まるでなんでもないことのように、それが当たり前の日常みたいにしれっと言った先輩は、それきり僕のことなんか気にもせず、窓際に腰掛けて本を読み始める。なんだか、なあ。


「……でも、待っててくれる人がいるなら」
「ん? 何か言った?」
「いえ、なんでも」


 難しく考える必要なんてないのかもしれない。答を出してくれるのは、きっと僕じゃなくて、そうやって待っていてくれる人なんだから。ありがとうございます、とは口に出すのがなんだか恥ずかしいので、心の中でだけ呟いて。
 目の前には真っ白な原稿用紙、右手には一本のシャープペンシル。始まりはいつもそこから。
 ——さて、それじゃ。
 今日は何を、書こうかな。