誇張表現が含まれます

そして落ちてない。
あと他意はない。
最初はもっとひどかったんだけどオブラートにくるみなおして邪魔な部分はぽいしてやった。
ぽい!



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「暑い……」


 ぐったりした様子で、けれど本は手にしたまま離そうとせずに、先輩がうめいている。ついでに言うと、そんな状態でもしっかり目は文字を追っているようだし、思い出したようにメモを取るのも忘れていない。うん、病気だよねこれ。


「そんなに暑いなら、図書館でも行ってきたらどうです? 快適に過ごせると思いますけど」


 涼みに行く、という使い方はいろいろと間違ってるんだけど、こんな調子でいられるのもわりと困る。先輩なら——いや、僕もそうだけど——退屈しないでしょ、そんな気持ちで言ってみたんだけど。


「ダメだ。あそこはダメだ」
「なんでですか。しかもそんな真剣な顔で言わなくても……」
「……寒いんだ」
「は?」
「だから、寒いんだよあそこ」


 いったい何がどうなったらそうなるんですか。理解不明なことをうめく先輩だったけど、突然、ばん、と机を叩いてやおら立ち上がると、


「クーラーが効きすぎなんだよ!」


 そう叫んだ。
 あー……はい、そうですか。それはそれは。


「あれはもう僕を狙ってるとしか思えないね! 他に寒いなんて人の話聞いたことないし!」
「何やらかしたんですか先輩……」
「知るか! ……はあ」


 ひとしきりヒートアップしたかと思えば、今度はまたぐったりに逆戻り。なんかこう、めんどくさいなあこれ!


「じゃあもういっそ、遠出して避暑地にでも」
「僕が遠出とかすると思ってるの!?」


 逆ギレである。しかも怒ってる内容がわりとアレな感じで、先輩の残念さが強調されている。ダメな人がいるよ……


「でも先輩、なんか最近ちょくちょく出かけてるみたいですけど?」
「まあ、さすがに誘われたらね」


 そうなのである。
 このそれなりに出不精な先輩を連れ回す、というのは、そんなに簡単なことでもない。どこの誰だか知らないけど、よく出来ましたと褒めてあげたい。


「よかったじゃないですか。やっぱり引きこもってちゃダメですよね、人間」
「あんまり君に言われたくないんだけど……」
「いやいや、僕はわりとしてますよ、遠出とか」
「で、誘ってくれないんだよね、全然」


 なんでそこでそうなるんですか。誘うとか誘わないとかじゃなくて、僕は自分の用事があるから出かけるわけでですね。


「いいじゃん別に、連れてってくれてもさ」
「いやだから……もう、わかりましたよ。そのうち何か決まったら、一応誘います」
「ありがと」


 短くそう答えると、またしてもぐでっとしただらしのない姿に戻る先輩。ああなんか見苦しいなあ……


「ちなみに、先輩から誘うのは」
「ない」


 きっぱり。
 はいはいそうですか、と。
 にしても。
 僕はまだまだ耐えられるとはいえ、毎日こう暑いんだから、こうなるのは火を見るより明らかな話、それでも僕がここに来てしまうのは何故だろう、なんて考えてみたりすると。
 ——やっぱり落ち着くから、かなあ。
 こんなろくでもないやりとりでも、ないよりはちょっとだけましだし。単に利用してるだけみたいな気もするけど、その辺はこの人も同じ……なんだろうか。どうだろう。聞いてみたいような、みたくないような。
 まあ、どっちだっていいんですけど、ね!