まとまんないけどとりあえず

寝かしてよくなる類のジャンルではない。
ので。
ぽぽぽぽーん。



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 ふう、と一息。
 素敵な物語の結末を見届ける瞬間は、いつだって嬉しいし、寂しいもの。それでも、ひとまずの終わりがあるからこそ次に進めるし、その先を想う楽しみもある。
 ともあれ、そんな満ち足りた気持ちでぱたんと手にした本を閉じて顔を上げると。


「……何見てるんです?」
「ん? ああ、面白かったんだろうなって思って」


 いや、まあ、そうなんですけど。でもそんなふうにじっと見られてると、なんかなあ……


「にしてもさ、よく読むよね、ほんと」


 こっちのなんだかもやっとした気持ちなんて気にもとめない様子で——気にされてもどうしようもないんだけど——そのままスライドされた先輩の視線の先にあるのは、僕が今日読んだ本。山になってる、なんてわけじゃないけど、多いか少ないかで言えばやっぱり多い……かな。
 だけど。


「それ、先輩にはあんまり言われたくないです」
「いやいや、僕なんかとてもとても」
「そっちは読んだ上に感想まで書いてるじゃないですか。その方がすごいですよ」


 本人は習慣だって笑うけど、習慣になるまで続ける人なんてそうそういない。ただ読み散らかしてるだけの僕なんか、比べるのが失礼な話だと思う。


「まあ、すごいかどうかは置いといてさ。最初に同じくらい読む人がいる、って聞いたときはちょっと驚いたかな」
「こっちは基準がよくわかんなくてさっぱりでしたけどね」


 そう、幸か不幸か、僕の周りには本を読むタイプの人、というのがほとんどいなかったのだ。そんな中、背中を押す人もいなかった代わりに、引き留めてくれる人もいなかったせいで、ただひたすら目の前にあるものを手に取り続けていった先に、今の僕がいる。この表現はあんまり好きじゃないんだけど、ガラパゴス、というやつである。
 そんなわけで、わりと非常に不本意ながら、先輩は僕にとってある意味初めて出会う『本を読む人』だったりもする。読むっていうか食べてるんじゃないかと時々思ったりもするけど。あと吐いたり。


「僕はその話聞いて、すぐに同類だと思ってたけど?」
「同類ってなんかヤな響きですね……」
「あのさ、今わりと本気でイヤそうな顔したよね? そうだよね?」
「気のせいじゃないですか」
「……へえ」


 同類、と言ってしまえばそうなんだけど。でもなあ。僕きちくとか言われたことないしなあ。先輩みたいに悪いおとこじゃないしなあ。


「まあ、みんなが言うほど似てるわけじゃないと思うけどね」
「ですよね。なんかひとくくりにしたがる人多いですけど……」


 どこがどう、というのは感覚的な話になってしまうけれど、やっぱり僕と先輩はそんなに似ていないと思う。で、だからこそそれなりに馬が合うというか、そこそこうまくやっていけてる……ような気がする。そこそこ、あくまでそこそこだけど。


「別にどっちだっていいけどさ。僕らがわかってればいいことだし?」


 その言い方もどうかなあ……なんて思いつつ、ですかね、と苦笑を返してみる。
 世間一般ではきっと『友達』って呼ぶんだろうけど、なんだかどこかちょっと違う気もする僕らのこの関係、さて、いったいなんて呼んだらいいんでしょうね、先輩?