まあなんだ、がんばれ

今更ながら、実在の出来事・人物とは一切関係ありませんですのだ。
のだ!



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「はあ……」


 いつものように部室に顔を出すと、そこには溜息をつく先輩の姿。いつも飄々としているというか、基本的に良くも悪くも隙を見せない人なので、こういうのはわりと珍しい。あ、特定の時間すぎるとやたら眠そうになるっていうのはあるけど、あれはまた別だよね。


「どうしたんです?」
「ん、いやちょっとね」


 お茶をにごすような、そんな曖昧な返事は本当に先輩らしくない。なんだって、すぱんと言い切っちゃうのがこの人なのになあ。こうなると、こっちの方がなんだか座りが悪くて落ち着かない。


「珍しいですね。先輩が落ち込むとかあれじゃないですか」
「あれって何さ」
「ええと……ほらあれ、吐くまで読んだときとか」
「だれがそんなことするか!」


 あ、なんか調子出てきた。うんうん、先輩はやっぱりそうじゃないと。普段俺様の人が——って言うと怒るけど、そんなに間違ってないよね——しょんぼりしてると、周りが困るんです。


「でも前に自分で言ってたじゃないですか、吐くまで読んだことあるって」
「いや、あれはちょっと特殊なケースで……」
「へーそうですかー」
「お前な……」


 うーん、普段散々いろいろ言われてるから、こういうのは新鮮でいいなあ! やみつき……にはなったりしないけどね、いくらなんでも。っと、本題はそんなことじゃなくて。


「でもそれくらいヤなことあったんですよね」
「別に! ……そういうわけじゃ」
「でーすーよーね。だってホントにそうだったら」


 あんな顔しないですもん、と。両手を広げて肩をすくめてみせる。
 うん、そう。さっきの先輩、溜息はついてなんだかぐったりしてたけど、でもその表情は『しょうがないなあ』なんて様子で、小さな苦笑いでも、間違いなく優しいそれだったから。


「あー……」
「いいですよ、別に無理に何があったかなんて聞きませんから」


 僕には言えない楽しいことしてたんですよねー、と、これまた冗談めかして言ってみると、何を言ってるんだこいつは、という視線が返ってくる。うわー、全然優しくないんですけどー。


「なんでもない。ちょっと、これでいいのかって考えるようなことがあっただけ」
「そうですか。まあ、迷ってるフリして、答はもう出てるような感じでしたけど?」
「あのな……」
「はいはい、よくわかんない話はこれくらいにしましょう!」


 僕の目の届くところで、そんな隙のあるとこ見せないでくださいってば。先輩は先輩らしく、いつも無駄に偉そうにしてればいいんです。で、たまに面白かった本の話でもしてくれれば。だから、あとは自分で何とかしてください。頼みますよ、先輩。



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他意はないのよ、と私信めいた感じで。
みんながんばれ。