ヤツは天然、間違いない

とか言うと「何が?」って顔するんですよ、絶対。
だが間違いない。



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「これ、書いてみたんだけど」


 先輩にそんな声をかけられて、何の感想です?、と返してしまった僕を誰が責められるだろうか。無理だよね。
 だってあの先輩が何か書いたっていうなら、そりゃもう感想に決まってるわけで、誰に頼まれたわけでもなく、ただただ真っ直ぐに進んでいくその姿勢は、正直眩しい。やることやってる人が好意的に受け止められるのも、これまた当然な話で、そんなところはさすが先輩だと思う。……そうじゃないところでいろいろある気もするんだけど、そこら辺は、まあ、見ないことにして、ね?


「いや感想じゃなくて」
「違うんですか……?」


 じゃあなんだろう。
 言っちゃあなんなわけですが、先輩が感想以外のことを書く、というのがイマイチ想像出来ません。おはようからおやすみまで、読んでるか感想書いてるかの安心の活字ジャンキーだし。文学少女ってファンタジーのいきものじゃなかったんだよね……ん? お前が言うな? まあ細かいことはいいじゃない。気にしない気にしない。


「だから、ほら。見ればわかるでしょ」
「はあ、それはそうなんですけど……って、先輩これ!」


 それは、最近どういうわけか僕らの周りで流行っている、どこかで見たような誰かと誰かに似て非なる何かを主人公にしたお話、だった。どうしてそんなものが流行ってるかとか、誰かって誰さとか、そういうご質問には残念ながらお答え出来ません。本人の名誉ってやつもあるし。ああいや、本人とかいないんだけど。架空だし。虚構だし。


「ホントに書いちゃったんですね……」
「誰かさんがやけに楽しそうだったし」
「誰かさんって誰でしょうね。けしからんヤツですね」
「お前だよ」


 さいですか。でもあれは気の迷いというかなんというかそういうものでありましてですね? だいたい、公式が最大手とかそんな不名誉な称号も全然嬉しくないっていうか……


「いいから早く読んで、感想聞かせてよ」


 初めて書いた物語なんだからさあ、と微妙に早口な先輩。初めてがこれっていうのもどうかと思いますけど、もしかして。


「……照れてます?」
「うるさいよ!」


 わあ、珍しくかわい……くはないか別に。ふふん、でも普段散々からかわれてる方からすれば、なんとなく優越感。これはよいものだ。


「それじゃ失礼して——」




 読ませてもらいますよ、と言ったのが確か5分前。
 5分前のはずなのだけれど。


「なんだろうこの疲労感」
「失礼な! ひとの書いたもの読んでそれはないだろ!」


 いやだってあなた、これは、ちょっと、いくらなんでも。
 そりゃあね? 僕だってあえて羽目を外して書いてる部分もありますよ? でもだからってこんなしれっとだだ甘なんかにしないですってば! っていうか、うわあ! うわああ!!


「えー、そんなに変かな」
「変っていうか……いえいいです、なんか言っても無駄な気がするので」
「それどういう意味さ」
「深く考えたら負けです。気にしないでください、先輩は先輩だなあっていうだけなので」


 なんだよそれ、とかなんとかぶつくさ言っている先輩だけど、これ本当に自分じゃなんとも思ってないんだろうなあ。感覚が麻痺してるわけでもなんでもなく。はあ。


「天然って怖いですよね……」


 しみじみ呟いた僕に、何を言ってるんだ、という顔をする先輩だけど、つまりそういうところが、なんですよ! 少しは自覚してくれないと、周りが困るんですからね! まったく!



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ぴこ手ですよぴこ手。
だがジャンルとして成立している時点で試合終了。