『名探偵に薔薇を』(城平京)

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

探偵、というもの。
華々しい言葉のイメージとは対極に位置する、孤高の在り方。
その存在が向き合うのは、狡猾な犯人でも、血塗られた狂気でもなく、ただただ、現実のみ。


どこまでも第二部のための第一部、という構図が美しい。

同じような構図で、探偵とはなんぞや、は近作では麻耶雄嵩の『隻眼の少女』を思い起こしたりもしましたが、あちらが「名探偵のジレンマ」なら、こちらは「名探偵の運命」。
運命、という便利ワードで片付けてしまえるそれではありませんが、時にそうとでも思わなければやり切れない現実が、そこに。


第二部開始早々、直感的に「動機」は理解してしまったのですが、この物語のキモはただその「真相」のみにあるものではないのは明らか。
そこに至るまでに乗り越えた、乗り越えなければならなかったそれこそが、真実を白日の下に引きずり出す探偵という在り方の前に、ただただ「現実」として横たわる。
どこまでも無慈悲なそれは、けれど彼女にとって、ある意味で「日常」の風景。
救いを求めて地べたを這いずり回るより他になく、そうやって栄光と名声だけが産み落とされ続ける。


知らなくてよいことも、知らねばならない。
彼ら彼女らが対決するのは、いつだって、犯人でも事件でもなく。
真相より救いのない現実を前に、独り立ち続ける存在を、人々は呼ぶのでしょう。
名探偵、と。