『侍ニーティ』(みどうちん)

侍ニーティ (ルルル文庫)

侍ニーティ (ルルル文庫)

まさかの拙者働きたくないでござる小説。
しかしこれがなかなかどうして、おかしくて、しんみりもして、それからくすりと出来る。
侍でニートでダメ幽霊なのに、なんて愛しい物語。
とても素敵!


パパは霊能者でママは占い師、そいでもってお兄ちゃんはマジシャン、プラスただの女子高生のわたし、というなんだかよく分からない家族構成。

そんな一家が越してきたのは、どうにも陰気なボロ屋敷。
早々に家を空けてしまう三人に、取り残されたわたしことミツコは泣く泣く片付けに手をつけるのだけれど、そこで出てきたのが幽霊さん。
元侍で、でも死後もろくな仕事につけずに(死者にも会社があったり職安があったりする)、ふらふらとダメ浮遊霊をしたあげくに悟ったのが——


「——働くことをやめるべきだと」


ええもう、この辺ですでにノリノリです。
ダイジェストで書いちゃいましたが、ここに至るまででもう楽しいし、このダメ地縛霊のシシとミツコの掛け合いがぽんぽんととにかく楽しい。
登場人物こそ、先にあげた家族一同+引っ越し屋さん兼除霊屋さん(これも深く考えてはいけない)、と少なめですが、誰も彼もどこかおかしくて、素直に笑えます。
いいなあ、こういうの、本当。


それだけでも十分OKなのに、終盤は意外や意外、泣かせます。
前半とのギャップのせいかもしれないけれど、シンプルな構成がばしっと決まってじんわり来ます。
謎の感動なんてヒネ方じゃなくて、ど真ん中ストレートの一発勝負。
これもまた素敵。


そして「その後」もお楽しみ。
このエピローグがまた一段とお話を引き立てます。
笑いあり涙あり、実に素敵な作品。
これは自信を持って、好きです。