『アリス イン サスペンス』(桃華舞)

アリス イン サスペンス (講談社X文庫ホワイトハート)

アリス イン サスペンス (講談社X文庫ホワイトハート)

始まってすぐに分かる通り、これはもう「終わってしまった」物語。
時が止まればいいと願いながら、けれど駆け抜けた過去の記憶。
戻らない/戻れないそれは、どうしてこうも愛おしいのか。


街を駆ける彼らに誘われるように、テンポよく進む展開。
事件に至るまで、そして事件が起きた後も変わらぬそれは、確かにそこに彼や彼女がいた証にも思えます。
変わりながら変わらないもの、怒りも嘆きも哀しみも、すべては人の生。


すべてはもう起きてしまったことで、変えられることではないし、戻ることも出来ない時間。
それでも、かつて皆が過ごした時間は確かに存在していたし、消えることのない記憶として焼き付けられている。
そしてその延長線上に今があって、明日もまた否応なしに訪れる。
どうしてこう、「終わってしまった」物語と、そのあとにやってくる「明日」はこんなにも愛おしいのか。
しみじみと感じます。


……内容に触れてない?
いいんです、個々のキャラクタもエピソードも、この「空気」が語ってくれている。はず。