『ひがえりグラディエーター』(中村恵里加)

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

それはもちろん中村恵里加作品であり、中村恵里加作品であるからして内容は推して知るべし。
……いやそれだとファン以外には意味不明なんですが、そんなに間違っていない辺りがなんとも。
異世界に召喚されるからって、都合よく「勇者」なんかじゃない。
不条理な『遊戯』、死なない殺し合いに臨まねばならないそれは、単なるひがえりグラディエーター
意味より先に現実がある。


また例によって、安定と安心のえぐい設定。
血を流さねば主人公たりえないというのか。
今回のえぐさは、何より基本的にはゲームであり、殺し合いではあっても死にはしない、ということ。
本気の殺し合いの方が陰惨にこそなりますが、そこに至るまでのハードルが相対的に低いのは、つまりそれだけ踏み越えてしまう人が多いことを容易に予想させます。
また、このゲームが成立しているのもその一つの裏付けかもしれません。
加えて、勝てば報酬まであるとなれば、ああそれは本当に日雇いで剣闘士。
矛盾したそれを許容しうる「ゲーム」というのは、この状況を見事なまでに言い当てている表現、そんな気もします。


その中で、目的を持つ、ということ。
死にたくない/傷つきたくないからではなく、自身の意志として相手を打倒する/しなければいけない、これがまたえぐい。
刺すのも刺されるのも痛い、でも選んでしまった。
だからもう、進み続けるより他にない。
まったくひどい話です。
そしてそんなひどい話だからこそ、続いて欲しい。
辿り着くところに辿り着かなきゃ、ただ痛くて苦しいだけのお話になってしまう。
傷ついても打ちのめされても、到達すべき場所がある、というのは既にダブルブリッドで示しているのだから、どうか今度こそ。


ぐらシャチだって江藤比呂緒の始まらなかった伝説だって、待っているんだから。