『断章のグリム XIV ラプンツェル・上』(甲田学人)

シリーズも十四冊目、そろそろぱっと見てローマ数字が頭に入ってこない感じも……しませんかそうですか。
お話としては前回の展開を引き継いで、単に個々の怪異譚に留まらず、物語自身のうねりが一段と大きくなっています。
蒼衣の「主人公」としての役割も、また否応なしに。
望んでいないにしろ、既に結果は厳然たる事実としてある以上、調査に赴き巻き込まれるのではなく、迷える彼自身を中心にしたエピソードの到来を暗に示しているようにも見えます。


此度のお題はラプンツェル、塔の上の姫君。
奇しくもタイムリーではありますが、当然明るくもなければハッピーでもありません、今のところ。
……今のところというか、このシリーズがシリーズなわけで、すべては悪夢、最悪のバッドエンドを最良とは言わずとも、ぎりぎりひとのこころが耐えられるバッドエンドに収める以外に選択肢はない、のかもしれませんが。
そして、それすらも耐えきれずに壊れた当事者たちの犠牲の上でしかない、とも。


話がそれました、ラプンツェルです。
ひとまずのところ、起きている怪異は分かりやすいほどに分かりやすい形で提示されています。
……が、これもまた過去を振り返れば、そんな単純な話のわけもなく。
これまでであれば、ここからの連鎖を恐れるところですが、今回は蒼衣を取り巻く環境の変化もあり、それをも織り込んだ流れもある気がしています。
ラストのアレが、まったく関係ないエピソードの「横合いから思い切りぶん殴る」だけのものなのか、それとも彼もまた個人の憎悪を越えて取り込まれているのか、あるいは複数のエピソードが融合するのか。
上巻らしく、素晴らしくお先真っ暗です。


どうもここのところ、芽がーとか、生理的にげろげろぐろぐろな感じが続いていた印象もありますが、今回はそこはちょっと違う感じ。
もちろん「手」はお約束のように出ますが、今のところぐろくはない。今のところ。
ラプンツェルのエピソード的に、目玉辺りがアレしてソレする可能性は十二分にありますが。
ともあれ、むしろ全体としては精神的にくる展開に終始。
蒼衣然り、誰もが「わたしのせいだ」と追い詰められていく。
何が起きているのかは分からない、「でもわたしのせいだ」——これがもしかすると一つパズルのピースになるのかもしれません。


誰が、何のために、そして囚われていたのは何だったのか。
誰もが過去に囚われる中、一人ある意味で前を向く雪乃は何を選択するのか。
怪異は、そして人為は続く。