『空の彼方 3』(菱田愛日)

空の彼方〈3〉 (メディアワークス文庫)

空の彼方〈3〉 (メディアワークス文庫)

変われる強さと、変わる勇気。
二人のどちらがどちら、ともあるいはどちらも、かもしれません。
どこまでだってとは言えないけれど、そう願うのならひとはどこかに向けて歩き出せる。
辿り着くための物語であり、ここから始まる物語であり。


落ち着くべきところに落ち着いて幕が下りる、というのは、さすがに誰もが予想したところだと思います。
むしろこれでバッドエンドだったらどうせいっちゅーねんなわけで、よってこれは如何にしてそこに辿り着くか、そういう話。
それでもやはり、ぐさっとくる言葉はぐさっとくるし、まったくの不安なしで最初から最後まで、なんてことも当然無く。
逆にだからこそ、そこにいたるまで、その道程こそが物語、です。


スポットがあたるのは、どうしてもいろいろと制約のあるソラではなく、アルフォンスの方。
序盤こそ痛々しい姿ながら、勢いだけではなく、自分で選択して行動し始めた辺りから、一気に頼もしく見えます。
振り返ってみても、前の巻含めそれなりに序盤からいいヤツ兼出来る子だった彼ですが、今回は動く動機が動機だけに、締め付けられるような苦しさと、それでいいんだよという温かな気持ちがないまぜになって、結構、きました。
分かってても、こういうのは弱いなあ……


そして、アルフォンスにとってのクラウディオ、ソラにとってのマリアベル、それぞれにそばで支えてくれた存在の優しさ。
もちろん他にもいろいろな人たちがいたわけですが、誰かがそこにいてくれる、その意味、その大きさをあらためて。
誰だって、自分一人ですべてを知ることは出来ないし、また答が出せるわけでもない。
話せる、それだけのことが、ただそれだけなのに、温かい。
誰かと共にある、というのは素敵なことです。


もうちょっとゆったり見ていたかったかな、そんな気もしています。
ソラとアルフォンス、二人の物語に特化してしまった部分もあって、もっと様々な、行きて帰りし冒険者たちの姿、エピソードを描いた上で、そういう繋がりも以て、ラストエピソードを大きく飾るような、そういう展開をほんのり想像してみたりもします。
ただ、それは言っても詮無いことだし、何よりそんな物語たちは、これから先の二人の行く道に、幾つも紡がれていくことになるはず。
それを見ることは出来ないとしても、思い描いてみてもバチは当たらない、そんなことを今、考えています。