『ギデオンの恋人』(石和仙衣)

ギデオンの恋人 (講談社X文庫ホワイトハート)

ギデオンの恋人 (講談社X文庫ホワイトハート)

『ふしぎの家のアルバイト』でちょっぴり独特なノリを打ち出してきた作者の二作目。
今回は迷いなくストレート、の作品でした。
終着点から始まる物語、ということで、如何にしてそこに至るかがメイン。
構成(時間軸の辺り)をもう少しいじると、サプライズものにもなるんじゃないかしらん、とも思いますが、主題として恋愛ものである以上、ごてごてさせすぎない配慮か、展開は素直。
だからこそ、メリッサの得たものと失ったもの、双方を知った上で追っていけるのはじんわりときます。
ただ、ものすごく個人的な心情として、彼女より、リンドウより、ギデオンの存在に惹かれるものがあって、彼視点での歴代エピソードなんかも織り込まれていれば、と思うところも。
もっとも、それをやると本当に「ギデオンの恋人」になってしまって、リンドウの立場がなくなってしまうわけで、これはあくまで僕の好みのお話。


終盤の彼女の選択は、世界を変えるにはあまりに心許ない手段、ではありますが、最初の一歩はいつもそんなもの。
奇跡が起きました、ばばん!、ではなくて、小さな積み重ねの向こう、善意が運んでくる未来があっても、決して悪いはずがない。
あの二人に与えられるには、いささか遅いご褒美でしたが、しあわせな結末に、静かに拍手を。