『ビブリア古書堂の事件手帖 〜栞子さんと奇妙な客人たち〜』(三上延)

ほんのちょっとだけ不穏な序章と、なかなかインパクトのある一章の扉絵。
これは、と身構えていると、むしろそこにあるのは派手ではない世界。
過度に悲劇的でもなく、さりとてただいい話というわけでもなく。
振り子は確かに揺れているのだけれど、時を刻む針の音はどこか遠く。
その一冊の内側ではなくて、そこから外側に広がっている物語。


とはいえ、なかなかに騒がしい人たちもいて、そこの辺りは副題の「奇妙な客人たち」の言葉通り。

ファーストインプレッション通りに受け止めていいかどうか迷う、そんな人たちばかり。
それはもちろん、栞子さんも含めて、なのですが。


本が好きなひとは大抵どこかおかしい、ないし極端だったり、知らず類友である、というのは、若干の苦笑を交えつつも否定出来ないところ。
だからといって、誰もが飛び抜けた空想の翼を持っているわけでも、名探偵ぶりを発揮することもないのですが、ただ、一編の物語から、その向こう側にさらに別の何かを見られる、それも確かな話のような気がします。


閑話休題
とある古書店、そこを訪れる人々の持ち込むささやかな謎と、入院中のせいで基本店にはいない安楽椅子探偵めいた店主が軸のお話。
もっと派手に、あるいは涙を誘う展開にも出来たところを、あえて一定のラインで抑えた作りは、その空気感が好きな人にはしっくりくるはず。
してみると、表紙の抑えた感じもまさにそのものずばり、かもしれません。


加えて、各章で取り上げる本についても、内容に踏み込みすぎないところが、また魅力を残しつつの紹介にもなっています。
実際手に取るか取らないか、は人それぞれとして、どこかに残るものなのではないかと。


本は読むもの。
でも、読み終えた後に残る、読み終えた先に見える、そんなものもあります。
そこはいつでも終着駅で始発駅。
自分で進むも、誰かのナビに従うも、また楽し。